作品賞発表!
というわけで、長々と更新してきました2016年年間映画ランキングである【ウマデミー賞】もいよいよ大詰め。
作品賞の発表です。
なんだか既にアレコレといろんな媒体で年間ランキングが発表され尽くした感もありますが、オオトリだという気分で自分を奮い立たせて書いていこうと思います。
それではノミネート作品です。
『ザ・ウォーク』
観客を完全に殺しにかかってくるロバート・ゼメキスの殺意が、3Dという凶器を得て、致命的な傑作を世に放ってしまった。駄作率の高い『ザ』付き映画の中で、類まれな作品が誕生。映画館で、しかも3Dというシステムで観ないと魅力が毛ほども発揮されないという極めて「純映画館映画」として高く評価したい。
『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』
コンスタンスに公開されるJホラー界隈の中でも久々にスマッシュヒットとなった本作。竹内結子さんがわたしのツボを突いたというのを差し引いても、極めて「いやあ」な後味を残すという意味でセレクション。まさかの平山夢明(本編では別名義とはいえ)大活躍という中盤からのアクロバティックな展開も燃える。そして、彼だけノーペナルティw
『オデッセイ』
観る前の期待に応え、観ている間は至福、観終わった後は感服という、三段ロケット発射を見事にキメて、「SF映画史」という名の軌道上に散々と輝く星となった傑作中の傑作。「欠点がほとんど見当たらないのに、長所は山ほど思い当たる」という贔屓の引き倒しとも言えるA+を与えても「オデッセイなら仕方ない」と殆どの人が納得する極めて珍しい優秀作。「科学と言うものに対する敬意」という意味でも、個人的に「映画史上初の最高」と言っても恥ずかしくない評価を与えたい。
『キャロル』
ネタバレになってしまうが、この映画を「作品賞」に選べなかったといことが、2016年という豊作年を端的にあらわしている。とは言え、オールタイムベストというランキングなら恐らく10本の中に入るであろう、そういう映画。題材があまりにもツボ過ぎて冷静な評価軸に乗せることが難しいという意味でも、愛すべき作品。
『リリーのすべて』
こちらも題材が好みすぎるのと、プライベートな部分で評価軸に乗せることが出来ない作品。とは言え、それを差し引いても美しく切なく志の高い作品。
アーロン・ソーキンの無敵の脚本を得て、役者陣のコラボレーションが頂点に達する真の「怪獣対決映画」延々と続く見事なセリフの応酬にトランス状態に陥ること必至。観るものを選ぶ類の映画だが、この手の映画が大好きなら観た後の満足感は半端ではないことを保証する。
『ちはやふる-上の句-』
「スポ根」映画というジャンルに加えて、「マイナー競技」映画というジャンルとしても、定石を守りながら手練手管を使ってクライマックスの畳み掛けに収れんしていくシナリオと演出が見事。ヒロインとしての役割は広瀬すずのカリスマ性に任せて、ストーリー上の主人公をサブのはずの太一に持ってきたアイデアが秀逸。それにしても「机くん」のくだりの精神の高揚する感覚は得難い体験。
『ルーム』
映画本来のテーマとしては後半部分でのアレコレにあることは理解しつつ、やはり「監禁映画」として中盤の脱出シークエンスの「うわああ!! 早く走れ! 名前思い出せ!!!」という喉がヒリヒリするような切迫感を観客にあれほど味あわせたことと、そのまま続けてパトカー内での映画史に残る「まともな女性警官」によるハラハラドキドキの事情聴取シーンにつきる。アレがあるのとないとでは全く評価が変わるという意味でも重要なシークエンスであり、個人的に「つまるところ映画っていのはそういうのがあるかないか」なのだ。
『ボーダーライン』
《死んだ目アクター》として世界的評価の頂点に位置するベネチオ・デル・トロが、その持ち味120%で臨んだ超不穏作。微動だにせず決めるスリーショットに観客の心臓も確実に撃ち抜かれ、観終わったみると観客全員が「死んだ目」になっているというフィクションの壁を越えてくる異色作。「わたし今日はちょっと不穏な映画が観たいなあ」という彼女の要望に応えられるカップル映画としても高くオススメしたい。
『スポットライト』
「定規を当ててリストをチェック」「延々と聞き込み調査」「全く熱くならずに激アツな指示をするリーダー」「ピザを食べる前に手をこする」などなど、あげていけばキリがないほどの熱血映画。観ている間ボルテージ上がりっぱなしの傑作。
『ズートピア』
ディズニー映画の新たな金字塔などなどの評価はいったん置いておいて、とにかくフラッシュ。アレだけ何度観ても大笑いできるギャグはめったにお目にかかれない代物。
『アイアムアヒーロー』
冷静に考えるとこれだけ面白くて完成度の高いゾンビ映画と言うのは世界中を見回しても珍しいという事実に震える。序盤の「地獄の釜が開く」シークエンスから、カーチェイスに雪崩れ込む怒涛の流れは心底怖く燃える。そして、クライマックスでのロッカールームの名シーンから引き絞った弓が放たれるような驚愕の盛り上がりに拍手喝采。そして、一番特筆すべきは「恐いゾンビ映画」というものを日本でも成立させた偉業だ。
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
傑作『ウィンター・ソルジャー』からこっち方向に舵を切る決断力と、なりふり構わず詰め込みながら見事にまとめる「アベンジャーズ2.5」というてんこ盛り感と満足感。アントマンとスパイダーマンが参戦する空港バトルだけでも強烈なのに、他にも山盛りの見せ場を詰め込む圧縮ブリは、破綻一歩手前のギリギリさだが、辛うじて精神の均衡を保てるレベルを維持したという感じ。とは言え、800メートル走のつもりでコンディションを作ってきたのに、実はハーフマラソンだったという戸惑いがなかったと言えば嘘になるが。
『殿、利息でござる!』
竹内結子さんがキュートということを差し引いても、ひっじょうに満足度の高い後味が味わえる幸福な作品。妻夫木くんは『怒り』の芝居も良かったけど、この作品でも持ち味をうまく使っていたし、同じく山崎努も見事にミスディレクションとして効果的な起用だった。2016年はは日本娯楽映画史的にみても変革を迎えているという事実を再認識させられる良作の一本。しかし、真に恐ろしいのは同じ年に『残穢』とこれを監督しているという中村義洋という存在だ。
『デッド・プール』
「2016年の上半期はすごかった」と思わせておいて、「実は2016年はずっとすごかった」と年が明けてから判明したわけですが、その「上半期」を象徴的にフィニッシュさせた傑作。この作品から顕著に表面化することになった「SNSでの口コミによる興行への直接的影響」が、結果的に2016年という年を分析する意味でも大きな意味を持つという側面からも無視できない作品。作品自体の完成度の高さや楽しさとは別に、「宣伝がキチンと映画ファンの方向を向いた仕事」という意味では、上記の「結果的に口コミによる影響」となった作品とは違い、「目論見通りSNSの口コミ効果」で大ヒットに導いた意義は果てしなく大きい。
『シン・ゴジラ』
自分の映画鑑賞歴の中でもこれほどの「謝罪案件」も無いと思えるほど、完全にナメてた作品。先述したように上半期ですらあれだけの良作が揃っていながら、実は下半期から展開された異常とも言える邦画界の躍進の先鋒として公開された作品。「SNSによる口コミ」によるダウンバースト現象によって吹き荒れた狂乱の過剰な話題は、そのまま続く『君の名は。』の興行史に残る大ヒットをもたらしたと言っても過言ではないでしょう。
『君の名は。』
『シン・ゴジラ』が「潜在的な映画ファンを映画館へ引きずり出した」結果、それよるアフターマスと、RADWINPSの主題歌による予告編の効力が強烈な化学反応を生み出し、絶妙とも言える「夏休み最終週」という公開日と相まっての精密極まる猛烈なスタートダッシュを決める。そして、『シン・ゴジラ』を敬遠することによる反作用が生み出す需要を見事に掬い上げた内容。すべてが予測した結果を大いに裏切る興行を生み出し、事態はなお進行中という恐ろしさ。とは言え、新海誠の積み重ねてきた「呆れるほど綺麗な映像」「モンタージュシークエンスにかかり始める耳に残る主題歌」を認めつつ、シナリオ上の大きなフックである「実は……」の部分の絶大な効果が最大の功績であることは、絶対に外すことのできない重要ポイントだ。
『ハドソン川の奇跡』
毎度毎度「サラッ」と名作を量産する制御不能のクリント・イーストウッドが齢86歳にしてまたしても「サラッ」と作り上げた名作であり、実は普通のエンターテインメントの枠組みに収まらないチャレンジングな構成を持つ作品。「映画は時間の芸術」であることを再認識させられる「演出力」に舌を巻かされながら、見事な後味の着地を堪能させる傑作。
『湯を沸かすほどの熱い愛』
下半期に途切れなく続く邦画の傑作連打戦線の中で、普通ならキネマ旬報1.2位を争うような評価軸でのレベルの高さを誇りながら、結果的に谷間に陥ってしまっているような、言葉は悪いが「タイミングが悪すぎた」としか言いようのない不運な名作。もちろん高評価を多く出しているが、残念ながら興行的には影の薄いことになってしまっているのが同情を禁じ得ない。伏線の回収の見事さや、邦画特有の「お涙頂戴路線」から逃げずに立ち向かうというアグレッシブな姿勢などなど、語るべき点は枚挙にいとまがない傑作。
『この世界の片隅に』
2016年という年を締めくくる「大問題作」
手のつけられない凄まじい「映画力」のパワーを大爆発させ、観ている人間を柔らかく笑わせながらも一瞬たりと緊張を緩めさせないという、人類が恐らく今まで経験したことのない異次元の鑑賞体験を強いる凶悪な映画。「映画は記号の集積」「映画は100%テクニック」というような技術偏重の評価筋を全面降伏させておいてなお「感動せざるを得ない」という人跡未踏の領域に到達した圧巻の作品。素直に涙を流して劇場を後にするという現実への帰還行為を一切許可せず、魂を拳で殴りつけて映画の中に対峙させ続ける。フィクションという名の魔力を呪いのように行使し、鑑賞者の心に永遠の楔を打ち込む、創作物の結晶のような偉業の芸術。映画の分布図において世界の片隅にすぎないこの日本に、こんな物を誕生させた先達たちの積み重ねと監督の不屈の精神に感動を禁じ得ない。
と、いうわけで。
いよいよ2016年「ウマデミー賞作品賞」のはっぴょうでえす!!!
ウマデミー賞ゴーズ、トゥー…………
デレデレデレデレ…………
デン!
『シン・ゴジラ』!!!!!
監督庵野秀明!!!!!
パチパチパチ!!
もうココまでアレコレ書いていると書くこと残っていないんですがw
単純に2016年に一番何度も映画館に観に行った映画です。
最速上映では庵野秀明監督をナメていた事に猛省しながら、伝説の発生可能上映での鑑賞では、島本和彦氏と庵野秀明氏の握手を目撃したりして、ずっと楽しませてくれました。
何より言いたいのは、
「わたしはこんなゴジラが観たかったんだ!!!!」
ということです。もうコレにつきます。
観ていてコレだけ熱中して燃えた映画もないですよ。とにかく我を忘れて楽しませてくれたことに感謝感激です。
というわけで、ダラダラと長引いてしまった2016年ウマデミー賞をこれにて終了です。
もうこんな豊作は二度と起こらないんじゃないかと思いますが、2017年も色々と楽しい映画が観られたらいいなと思います。
ではこれからも「美味シネマどっとこむ」をよろしくお願いたします!