『一週間フレンズ。』★★★※CULT

山崎賢人が完全に頭一つ抜き出た当たり役。LGM的にも滅多にお目にかかれない「良い奴」を好演。
先日観たばかりの「オオカミ少女と黒王子」では、「この男の子はイケメンという設定なんだよね?」と自分の感受性をコントロールする必要があった山崎賢人。調べてみると菅田将暉と並ぶほどの売れっ子で、当然【LGM】界でも引く手数多の主演数。そんな彼が【LGM】の記号的には「モブキャラ」設定の「天パー頭」を引っさげて現れたときは正直度肝を抜かれた。山崎賢人だと気づかぬまま脇役かと錯覚した主役の長谷くん。こいつが名作『桐島、部活やめるってよ』でいえば神木くん演じる「前田」とでもいうべきキャラ設定。なにせ漫研に属していて、いつも漫画絵を描いてる上に、黒板にまで先生の似顔絵を描いていたりする。ところが、この作品は泣く子も黙る【LGM】(ローティーン・ガール・ムービー)。この長谷くん。そんな属性など全く気にするどころか、イケメンの親友はいるし(武文とは違う!)、似顔絵書いても先生からもツッコミを貰えるばかりか教室から笑いまでかっさらう始末。曰く「空気は読むものじゃなくて、作るものだと思うんです」と笑顔で申告したりする異界からの使徒。ところが、これがまた「良い奴」なので始末に負えない。通常の【LGM】では絶対に主役にはならないキャラである。記号的には「主人公の都合のいい友人」あるいは「ヒロインに思いを寄せて最後は振られる当て馬」が関の山。そんな長谷くんが「主人公」というだけでもこの作品がどれだけ特別な作品か分かるというもの。原作がスクエニからの出版なので、少女系コミックではないのも一つの要因かもしれませんが、それでも映画作品としては100%【LGM】として作られているので、逆に言えばこの主人公のキャラを改変せず、なおかつ山崎賢人が演じたということにこそ意義があるのでしょう。そして、何よりこの作品の素晴らしいところは、終盤の展開とそこから雪崩れ込む《あのくだり》。
~以下ネタバレ含みます~
なんとこの作品、一年間を季節ごとに描いていく構成と見せかけて、なんと主人公とヒロインが結ばれないまま(厳密に言うとちょっと違うんですが)、なんと1年が経過して高校の卒業式になってしまうんですよ。しかも、「記憶が一週間しか持続しない」というヒロインの障害はそのままに。なので、主人公長谷くんとの記憶は消えてしまい、なおかつ元カレとの記憶が蘇ってしまったために、そのカレとよりを戻してしまう。
場内観客一同「うそだろ!?」状態で、中にはすでにすすり泣きが聴こえてくる始末。
そんな卒業式も終わろうとする中、長谷くんがヒロインに卒業アルバムへサインしてくれと頼むと、本編最大のガジェットとして機能していた交換日記と共にプレゼントしたボールペンを使うわけですよ。すわ観客は「あ! そうだ、思い出せよ!!」となるわけですが、なんとヒロインはそっけなくサインを終えて立ち去る。文面も味気ない「卒業おめでとう」とかなんとか。長谷くん同様、観客の気持ちは絶望の淵へ。なにせ【LGM】は安定していないジャンルです。「まさか、バッドエンディングなの!?」という可能性は十分あるわけです。あのハラハラドキドキの絶体絶命の醸成は、昨今の映画でもなかなか味わえない種類のもの。こちとら「そりゃあ、ハッピーエンドですよ」という『燃えよペン』の名言を胸にいだいているわけですから心中穏やかではいられない。このままでは炎尾燃の鉄拳が飛んで来ることは明白。
一体全体どうなるんだ!?
と、手に汗握っていると、ヒロインが学校を立ち去ろうとする寸前に、校内放送で呼び出しがかかる。図書室に呼び出されると、メガネの図書委員の女子が(「リア充…」など、この娘が本編中でも細かく美味しいところを持っていく良いキャラなんですが、まさかそれが伏線だったとは!)「先輩本をまだ返していませんが」と。その本は冒頭で長谷くんが「本の厚さ」で選んだ全集の一冊。その「厚さ」で選んだ理由も見事なフックとして機能していて、ページの端に「パラパラ漫画」を描くために厚さが必要だったというわけです。で、その本の中身は観客に開示されていないわけです!
「キタ!!!」
と。
しかも、ここでも実は漫研の後輩に返却を頼んでいた長谷くんの布石が活きてきて、そこにいた後輩が「あ! ボクが持っているんです!」と差し出す。
もう、ここらあたりのテンポと展開は絶句するほど上手くて、エンドクレジットの脚本協力「吉田玲子」という文字で激しく首肯(もちろん彼女の功績かどうかは分かりませんが)。
そこでね! 風でページがペラペラめくれて長谷くんの描いたパラパラ漫画がチラっと見えたりするのがまた上手い!
そして、ついにヒロインが長谷くんの描いたパラパラ漫画によって、ふたりの出逢いからの物語を「知る」わけです!
この倒叙トリックのようなどんでん返しと、そのパラパラ漫画の破壊力。
場内の安堵と感動のボルテージの高さたるや。すすり泣きが随所で滝のように。
余談ですが、筆者が観たのはファーストデイの夕方の回。つまり文字通り「ローティーン・ガール」=女子中高校生たちで場内はほぼ満員。彼女たちはその場でチケットを購入するので、当然事前に「ど真ん中の席」を購入した筆者の周りを埋め尽くすわけですよ。まあ、この完璧な視聴体験。そして、居辛さたるやもう。しかし、あの状況でこれだけその中高校生たちと感動を共有できるこの奇跡ですよ。
最後のキメ台詞と共に握手した手のアップでエンドロールに突入したときには、【LGM】でこんな作品にお目にかかれるなんてという失礼極まりない感動でした。いや、本編は文字通り記号通りの作品で、「取り巻きのクズ」どころか「親衛隊のヤッカミ」なんかが結構重要な要素として機能していたりするので、ストレスがないと言えばウソになる作りなんです。まあ、長谷くんのナイスガイぶりでなんとか中和されてはいますが。
しかし、あの【ラスト10分】の展開は補って余りある感動だったことは強く記しておきたい。『ラ・ラ・ランド』も【ラスト8分】に命を賭けたような構造でしたが、まさか【LGM】でそんな作品にぶつかるという嬉しい悲鳴。
まあ、原作やアニメなどが既にあるので、そちらで既に感動を味わっている方も多いのかもしれませんが、女子中高生向けという限定されたジャンルの映画にも関わらず、映画的なダイナミズムに溢れたあの【ラスト10分】のためにぜひ余裕があれば観に行っていただきたいと強く思います。