『亜人』★1/2

ドスを効かせた声で終始「ながいくぅ~ん」と主人公永井に甘言を囁きまくるテロリスト佐藤。この極めてモダンステレオタイプ(ありきたりな現代の悪役像)のキャラを、ソレに陥るギリギリの線で生身の魅力を与えた綾野剛は作品唯一の功労者。マガジンチェンジのかっこよさなど、タクティカル・コンバット感あふれる動きは実に燃える。
本広克行という監督がいる。『踊る大捜査線』の大ヒットで現在に至る「邦画バブル」のキッカケを作った功労者の一人だ。続編『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』に至っては、現在に至るも「実写邦画歴代NO.1」の興行収入の座を維持し続けている。
が、
この監督の作品。
すべてを観ているわけではないので断定は控えるが、お世辞にも褒められるような作品は何一つとしてない。
TVシリーズの『踊る大捜査線』は大好きだった。『機動警察パトレイバー』から影響を受けたと公言している「警察を会社として描く」アプローチは大変斬新だったし、作品自体も大変楽しめた。その勢いをそのままに作られた劇場用作品第一作『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』も、ごった煮のシナリオと臆面もない他作品のパロディの中にも、お祭り騒ぎ独特のパワーがあった。
とはいえ、
その後の映画作品に関しては何一つとして面白いものは無かった。
むしろ、
凡作以下の駄作揃いと言ってもいい。
今作の『亜人』も、近年躍進著しい「日本のフィジカルアクション」ムーブメントの一角として、アクションシーンの殺陣や、銃撃戦の組み立て方など観るべき点は幾つか点在するものの、常にそれを観ながら「ああ、この監督じゃなかったらもっとかっこいいんだろうなあ」という差別意識にも似た思いが纏わりつく。
この映画には「日本エンターテインメント映画」の「悪いところ」が濃縮されている。ハリウッドの映画ばっかり子供の頃からバカみたいに観て育った人間が発症する「日本エンターテインメント映画アレルギー」を随所に誘発させてくる。「セット臭さを意識させる照明」「狙いを感じさせないハイスピード撮影」「慌てふためく殺され役のベタベタな芝居」「銃で撃たれる人間の下手くそな芝居」「独り言の説明」「観客の共感を拒絶するボヤキ」「面倒くさがる主人公」「計画性のない襲撃」「甘すぎるセキュリティ」「そんなところに置いておくわけがない金庫」「ヒャッハー!と知能指数ゼロの殺人」「俺ら無敵じゃね!?」などなど枚挙にいとまがない。
大小細々数え上げれば全シーン全カットに至るまで、モノの見事に「これやっちゃダメ」という要素がてんこ盛りなので、これから日本エンターテインメントを背負って立つ若者たちは全員勉強のためにも観るべき作品と言える。
実は20周年なんですねえ。TVシリーズは今観ても十分面白い作品です。
原作は佐藤が飛行機でツッコむまでは読んでいます。原作もやはりステレオタイプなキャラや作劇にうんざりして止めてしまったんですよねえ。