(500)文字のレビュー『チア☆ダン』★★★「ギャグの大切さを痛感させられる王道快作」

チアダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』★★★

コメディリリーフと憎まれ役というステレオタイプのキャラを的確にこなしつつ、クライマックスでの「第三の主人公」ブリに全オトナ号泣必至の名演を披露した天海祐希さんは今作最大の殊勲賞。

広瀬すずさんと言えば「2016年邦画革命」の一本である『ちはやふる』ですが、1年後の今作もその流れをくむ「マイナースポーツ奮闘モノ」としてまたもやホームランを打ち上げてくれました。実話をベースにしているという事もあり、タイトルが物語を全部種明かししているという、ラノベなどでは近年珍しくはなくなったスタイルの作品でもあります。つまり、予定調和を完全に開示した状態でいかに観客を満足させるかという「倒叙エンタメ」です。

原作の少女コミックがあるわけではないのでLGMの定義からは外れますが、ターゲット層の大部分は女子中高生のはずですし、スタッフもLGMの快作『俺物語!!』組によります。とはいえ、ロマンスは文字通り添え物として描かれるだけですし(もっとも、ロマンス関係もユーモア満点で楽しかったりもする)、『ちはやふる』同様基本的にはスポ根映画というジャンルに属する作品なので、老若男女楽しめる作品として製作されているのは志が高くてグッド。

マーケティングとしては基本LGM路線を狙いつつ、願わくば「フラガール」のような興行を目指しているのだと思いますが、個人的に「フラガール」はまったく評価していないので、ただ素直に作品のクオリティの高さをもってしてSNSなどの口コミによる興行を期待したいところです。

21世紀最大のスター女優として誰もが認める広瀬すずさんですが、その溌剌とした完璧な笑顔が「作品最大のモチーフ」とも直結して、疑問を挟む余地のない説得力を勝ち得ています。

『がんばれベアーズ』モノの定石として、チームのメンバーもそれぞれ個性的で、なおかつ適材適所としかいいようのない体型や顔などを配置したキャスティングは見事の一言。しかも、全員が素晴らしいダンスを披露するのですから、観ていて非常に多幸感があります

加えて副主人公として部長を演じている中条あやみさんも、広瀬すずさんとは好対照の静かな魅力を全開に発揮していて作品を支えています。

ストーリーは先述したように「倒叙型」なので、勝つか負けるかで物語を引っ張ることができません。ではどうやって牽引しているのかというと、それはズバリ「笑い」です。後半部分はいよいよダンスが本格化するのでそちらで引っ張られるのですが、中盤までを見事に押し進めていく「ギャグ」と「ユーモア」の弾数の多さは、LGMの基準からしても並外れていますし、その打率の高さも特筆すべきでしょう。無論数撃ちゃ当たる的に凡打的な笑いも多々あるのですが、それが生み出すテンポと躍動感はこの作品を成功へと導いている大事なジャッジだと思います。『ちはやふる』とおぼおんなじキャラをそのまま同じ役者の真剣佑にやらせてしまうというのも、開き直ったかのような清々しいユーモアに感じてしまうぐらいです。単純な方法論ではありますが、「作品の中に引き込む」ためには「飽きさせない」工夫が大量に必要なわけで、その工夫があらゆるパートに隙間なく埋め込まれているシナリオは、「お約束」の一言では済まされないグッジョブと言えます。特に中条あやみに何度もアタックする男子高校生の「同ポジ」による天丼ギャグは、結果的に感動すら生み出すという素晴らしさでした。感動させるべき部分ではストレートに感動させつつ、要所要所ではあえてそれを外すツッコミやギャグを入れるのも、なかなか近年の「お涙頂戴系」の蔓延る邦画界では勇気ある選択だったと思います。

最後に一番今作で感動させてくれたのは「オトナ」の側である教師「早乙女」の描き方でしょう。天海祐希さんの「鬼教師」やオーバーアクト一歩手前の芝居によるコメディリリーフとしての見事さもさることながら、クライマックスの決勝直前に観客に開示される「オトナ」の側も色々頑張ってきたんだというくだり。主人公にコーチが話して聞かせるというのはいささか安直な作劇ではあるものの、あの一連の「子どもたちの行動の裏側で」というモンタージュは、仮にも大人になってしまった人間としては涙を禁じ得ない。子どもたち側のドラマとして完結してこそ青春映画という気持ちはあるにせよ、あれを終盤にもってきた反則技には素直に感動してしまったので降伏する他はありません。

カットバックの多用による「説明過多」な部分が若干気になるにしろ、こういったジャンルを得意とする邦画界でも、ブッチギリに面白い作品だったと思います。

オススメ!

【121分/シネマスコープサイズ/2Kマスター】(イオンシネマ板橋11番スクリーンにて鑑賞)
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