『ダンケルク』(DUNKIRK)★★★1/2※CULT
レビューその1「IMAXで観る意味について」

ここ数十年安定していた(変化のなかった)映画のフォーマットに大きな風穴をぶち開けたクリストファー・ノーランの現時点における最終兵器。
この映画を語る上で【IMAX撮影】は避けて通れませんし、一廉の映画マニアを自認する人間なら、大なり小なりそれを踏まえた上でないと感想を書くことは難しいはずです。
というわけで、初見を「ノーランのためにフィルム上映しました」というジャパン・プレミアで体験してしまったばかりに、殆どその愚痴しか語ることのなかったファースト・インプレッションからなんと三ヶ月半近い月日が経ってしまいました。
あれはデジタル時代の現代における「フィルム上映」についても考えさせられることの多い体験でしたので、決して無駄ではなかったと思いますし、そもそも先行して鑑賞できた上に生のノーラン自身を観ることも出来たので得難い体験だったと今は気を取り直しています。
そういった事情もあり、要するにこの『ダンケルク』という作品の感想を書くためには、やはり「IMAXのオリジナル・フォーマットである1:1.43で鑑賞することができる日本唯一の劇場」大阪エキスポ109シアターに行き、【レーザーIMAX】で鑑賞しないことにはお話しにならなかったわけです。
こんな酔狂なレビューページをご覧の方にとっては釈迦に説法かもしれませんが、一応ここで【IMAX】についてごくごく簡単におさらいを。
- 70ミリフィルムという通常のフィルムの倍近くある大きなフィルムを縦ではなく横にして撮影することにより、さらに巨大な面積での撮影を可能にしたフォーマット。
- 従来アトラクションなどでの使用を目的としたフォーマットだったものが、劇場映画をその巨大なスクリーンに上映する事がアメリカでブームを巻き起こし、「IMAXで観る」事が映画ファンの間でトレンドとなった。
- ジェームズ・キャメロンがよせばいいのに「映画はこれからすべて3Dになる!」とかぶちまけ、3D上映においても先駆的存在であり、技術上「明るいまま観ることができる」IMAX3D方式が改めて注目され、大作映画をIMAXで封切り時から同時公開することがある種のステータスとなる。
- 「映画館へ映画ファンを取り戻そう」という至極真っ当な目標を掲げた生真面目なイギリス人クリストファー・ノーランが、『ダーク・ナイト』で「本編の撮影の一部にIMAXカメラを使用し、そのシーンをオリジナルのまま鑑賞するにはIMAXでの鑑賞が絶対条件」となる。作品本編の完成度の高さも相まって、いよいよ「IMAXで映画を観る」という行動が映画マニアの中で浸透する。
- クエンティン・タランティーノが往年のラージ・フォーマット・スペックである【ウルトラパナビジョン70】で全編撮影した『ヘイトフル・エイト』も話題となり、ノーランの野望である「映画館で映画を観てほしい」という目標が業界内にも大きく浸透していく。
- そして、今回いよいよノーラン自身が「全編の70%近くをIMAXで撮影し、他の部分の70ミリで撮影」というすべての意味で完全な「ラージ・フォーマット」映画として完成させたのが本作『ダンケルク』ということに。
【デジタルIMAX】と【レーザーIMAX】の違いについて
さて、この【IMAX】
数年前には日本からほとんど絶滅し、一部の地方で本来のアトラクション上映としてほそぼそと命を永らえていた状況でしたが、この世界で起こるムーブメントに遅まきながら乗っかれとばかりに、一部の劇場が「改装」という形で導入したのが【デジタルIMAX】という規格です。
後述する【レーザーIMAX】も同じくデジタルであることには変わりはないのですが、便宜上ここでは【デジタルIMAX】と【レーザーIMAX】ということで区別します。
この【デジタルIMAX】、もちろん普通のスクリーンに比べて「壁いっぱいを使ったスクリーン」「とにかくド派手なサウンド」「暗くならない3D方式」といった具合に、いい塩梅にIMAXに飢えてきた地方(日本も含む)にとっては救世主のような存在として次々とオープンしていきました。日本においても経った数年で「IMAXで映画を観る」事が映画ファンの中でのトレンドとなり、ステータスになりました。そして【IMAXでの鑑賞】は新規の映画ファンも新たに取り込むことに成功し、立川シネマシティが巻き起こした【爆音ブーム】と相まって、日本でも「映画を映画館で観る」という鑑賞体験そのものがブームを巻き起こす成果をあげました。
そういう意味では【デジタルIMAX】の果たした興行的かつ映画史的な功績は大きいわけですが、いかんせん【デジタルIMAX】には2つの仕様的限界があるのです。
1.2Kでの上映しかできない。
2.アスペクト比が1:1.9(本来のIMAXオリジナル・アスペクト比は先述の通り1:1.43)
とはいえ、実際にはデジタル化が進んだ映画界で、そもそもデジタル処理た全編に及ぶ大作は、殆どが2Kマスターでの製作であり、アスペクト比もそもそもシネマスコープ・サイズ(1:2.40)であるから問題はなかったのです。
んが、
そう、ノーラン監督は【フィルムIMAX】で撮影をしているのです。つまり
こういった感じで、映像そのもののフレームが違ってしまう。
ごくごく簡単に書くと、通常の映画館で観る場合は一番右の画面「1:2」という横長のアスペクト比です(70ミリで撮影されているのでシネマスコープ・サイズよりも上下が広い)。
ところが、先述したように『ダンケルク』は106分という上映時間の70%近くが【フィルムIMAX】で撮影されているので、その部分(要するに映画の殆どの部分)が左の「1:1.43」というほとんど正方形に近いアスペクト比なのです。
では、【デジタルIMAX】はというと、その画面の上下をトリミングすることで「1:1.9」にして上映されます。
そう、結論から言うと、この「1:1.43」というアスペクト比で『ダンケルク』を観ることができる映画館はレーザーIMAXという設備を持つ大阪エキスポ109しか現在日本にはないのです。しかも、レーザーIMAXは【4K】での上映が可能な唯一のIMAX規格。つまり、フィルム撮影された『ダンケルク』の本来の映像に出来る限り近い映像を観ることができるのです。
それゆえ、日本中の映画ファンは大阪へ高い旅費を払ってまで観に行っていたというわけです。
まあ、もっと言えば外国にはさらに大きなIMAX劇場が存在しますし、そもそもフィルムIMAXをそのまま上映できる劇場も残っています。そこで観ることができればさらに巨大な『ダンケルク体験』が可能になるのですが、ひとまずここは日本での話にさせてください。
というわけで、公開から遅れること1ヶ月近い10月1日にいよいよ大阪へ行って『ダンケルク』を【レーザーIMAX】で鑑賞することが出来ましたので、ついにやっと『ダンケルク』についての感想を書こうと思います。
【つづく】
『ダンケルク』の驚異的な映像を多少なりとも再現しようとするなら4K&HDR収録のUHD一択になります。もちろん再生環境が必要ですが、将来的な投資という意味でも余裕があれば、こちらのセットを購入しておいたほうが精神衛生上よろしいかと。
従来スチール・ブックの商品はブルーレイのみになることが多い中、今作ではキチンとUHD同梱版としてリリース。これは大変素晴らしい仕事。
ノーラン作品に欠かせない盟友ハンス・ジマーが、時計の秒針の音を効果的に使用したテンションの高いサウンドトラックを。