(500)文字のレビュー『ゲット・アウト』★★★1/2※CULT「人種差別ホラーの殻を被った極限の恐怖体験を描く傑作ホラー」

『ゲット・アウト』(Get Out)★★★1/2※CULT

単独でも意味不明に薄気味の悪いシーンが数珠つなぎになっている不穏さ。それらがパズルのピースのように見事にピッタリはまる瞬間のカタルシスと恐怖。この表情だけでも「厭ぁ」な気分にさせる百点満点の恐怖映画だ。

個人的に考え得る、最強で最恐の【恐怖映画】である。

人種差別をモチーフとしたホラー映画として情報が先行し、事実本編は紛れもなく「人種差別」そのものを的確に(高次元なレベルで)【ホラー映画】に昇華させているという点で、その情報に偽りなしと断言できる。

が、

本作がその先の部分である【恐怖映画】の本質的なクライマックスへ突入するに至って、観客は圧倒的な衝撃に包まれる。そこまで積み重ねてきた有り体な「人種差別をモチーフにしたホラー」から観客が予測し得る到達点を大きく裏切り逸脱するクライマックスからの展開。やもすれば賛否が分かれかねないアクロバティックさである。であるが、そこにいたる布石を貪欲に取り込んで訪れる【根源的な恐怖】【知的生命体としての恐怖】【脳としての恐怖】満点の展開は、極めて斬新かつ震え上がるアイデアに満ちている。

謎が謎を呼び、観客が「一体全体どういうことなんだ??」と終始宙ぶらりんの状態に陥るクライマックスまでの世界の醸成力は、とても監督デビュー作とは思えない素晴らしさ。「夜のだだっ広い庭の暗闇の中からまっすぐ突進してくる大きな人間」だの、「突然瞳孔が開きっぱなしになったと思いきや「Get Out」「Get Out」とタイトルにもなっている、英語の単純な常套句の連呼」だの、「自分の置かれた状況が決定的にヤバい事が判明してもなお、理性にすがらざるを得ない心理的葛藤に苦しめられる主人公」だのだのと、どのシーンも細部に渡って隙間なく観客の神経を刺激し張り詰めさせ続け、常に観客に「とっとと逃げて!頼む!!」と懇願させるストレス。

そこから突入するクライマックス。

古いブラウン管に映る解像度の低い古臭い映像の気色悪さ。決定的に「話の通じない人間」と遭遇してしまった時の得も言われぬ恐怖感。そして明かされる恐るべきカラクリと、それから観客に導き出させるされる「無限地獄」への【恐怖】

あれが【恐怖】でなくて何なのだろう。【死】というすべての生物が等しく備えている平等な恐怖を唯一超えてくる、【知性】と引き換えにもたらされる「人間」ならではの【恐怖】。それを想像させるサディスティックな展開。

加えて、筆者がさらにこの映画を強く推す理由としては、この「不条理極まる」クライマックスに至ってからの極めてカタルシス溢れる「論理的な伏線の回収」による「娯楽映画魂」とも呼ぶべきシナリオの素晴らしさだ。

エンディングに至っては、そこまでの究極に張り詰められた緊張感からの解放もあいまった、得も知れぬ後味の良さに喝采を叫びたくなる。

シナリオ段階ではエンディングはまったく正反対の展開だったそうだが、完成作で採用されたエンディングの素晴らしさを強く推したい。

「ホラー映画は後味が悪くてなんぼ」という持論の持ち主でもある筆者でも、あんなものを見せられては降参するしか無い。

「ホラー映画は後味が悪いからワザワザ観たくない」という向きにこそ、自信を持ってオススメしたい。「いやあ、アレだけ恐いくせにスッキリ最高に終わる映画なんて初めてだよ!」と。

必見の傑作。

【103分/シネマスコープ・サイズ/2K/字幕】
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