(500)文字のレビュー『ローガン』★★★※CULT「カワイコちゃんだと油断してたら殺人マシーンでしたロード・ムービー」

『ローガン』(Logan)★★★※CULT

『ドントブリーズ』以降、白髪ヒゲモジャが今の殺人マシーンのトレンディなのか。

最初にお断りしておくと、筆者は『X-MEN』シリーズこそ一応全作観ていますが、スピンオフの「ウルヴァリン」シリーズは前作前前作ともに未見です。同じような人も数多くいることでしょうが、観ていて特にひっかるようなことは無かったので、気にせず観ちゃっていいと思いますw

今作ではいつもの「そのアトムみてえな頭刈り上げっど」的ヘアと、ヒゲなのかモミアゲなのか分からない顎ヅラを封印し、老眼鏡をかけなきゃ字が読めないような爺状態な姿で登場するウルヴァリンことローガン。そもそも劇中でも「ウルヴァリン」と呼ばれることは最初の数回だけで、基本的にはすげえ強い爺さん。

そんなローガンさんが、アル中で常に咳き込み、回復の兆しもなく片足を引きずっている。このキャラクター造形がそもそも渋いアクション映画の基本条件をことごとく満たしており、今作の「ハードボイルド・ヒーロー映画」とでもいう作風を体現しています。『X-MEN』ワールドはわたしも詳しくは知りませんが、映画を観ている限りでもおおよそ整合性なんかあまり気にしておらず、幾重にも重なるパラレルな世界設定なのは分かりますから、今作も通常のヒーロー映画然としたシリーズとは別の世界軸であろうということは、観ていて一瞬で分かります。しかも、そこらあたりを特にちんたら説明することもなく、アルツハイマー病に侵されたチャールズと、女の子と、ローガンという三人の「疑似家族」ロードムービーとして観るのが正しい見方でしょう。そして、それがやたらと胸を打つんですよね。

しかし、そこはそれ、仮にも両手からサーベルが飛び出るような主人公が登場人物ですので、要所要所でアクションが炸裂します。それがまた激渋かつリアリティ満点のアクションをみせてくれて燃える燃える。

作中でも一番盛り上がるであろう序盤の砂漠でのアクション。ここで可愛い女の子を捕獲しようと屋内に潜入した追手、その悲鳴だけが響いてくる。「あ、こりゃキタぞ」と。果たして両手どころか両足からまでサーベルを突き出した女の子が追手の集団を相手に大暴れ。そのプロレスの空中殺法もかくやとばかりに次々と圧倒的な殺人マシーンぶりにしびれるなという方が無理。そして、ローガンも負けてられないと車を使って逃走をはかりますが、なんと鉄条網にぶち当たっても突き抜けない! アクション映画は星の数ほどアレど、鉄条網を車で突き抜けられないアクションなんて前代未聞。いやあ、あのくだりは最高です。

そもそも、女の子が人を殺しまくる映画ってのは『キック・アス』を例に出すまでもなく面白いに決まってるんですよ。

そして、主人公が「片足を引きずる」ってのは、『ニューヨーク1997』『マッドマックス2』がそうだったように、無条件に燃えるんですよ。

その後もアクションシーンがあるにはあるのですが、基本的にはロード・ムービーが基本ですので、「色々ある」という「色々」の一つに過ぎないんですけどね。

逆にアクション映画として観てしまうと、序盤以外のアクションは大人し目かもしれません。

ロード・ムービーだからこそ、ラストでは号泣必死のちょっとした捻りが用意されており、X-MENファンでなくてもアレは泣いてしまいます。

全編を通じて殺伐とした空気や、「国境」に関する扱いからしても、現在の「アメリカ」の問題をイメージしているのが明らかなのに加えて、今作では(それだからこそ)「子どもたちがウルヴァリンたちの活躍を元にして創作されたフィクション=コミック」というものを希望として胸にいだいて(文字通りフィギュアやコミックをみな抱いている)行動している事が大きな感動を誘発してくれます。「現実」に対抗しうる「希望」としての「フィクション」というものの偉大な力と、それが子どもたちにとってどれほど大事な存在かということを、ここまで明確にビジュアルを通じて描いているヒーロー映画はなかなかないのではないでしょうか。

それにしても、終盤でまさかの『ザ・チャイルド』もかくやという、「こどものこどもによるこどものための大殺戮」が用意されており、あそこはR指定ならではの残虐シーンが意味を持つ爽快なシークエンスでした。

ヒーロー映画に興味がなくても、ロード・ムービーや『レオン』のような映画が好きな方にも楽しめる傑作ではないでしょうか。

【137分/シネマスコープ・サイズ/2Kマスター】(イオンシネマ板橋9番スクリーンにて鑑賞)

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