『モアナと伝説の海』★★★1/2

この躍動感あふれるビジュアル。「探究心」という人類に備わった究極の本能を「冒険」という至高の物語と直結させた傑作。
ジョン・ラセターが加わってからのディズニーアニメは明らかにレベルがワンランク上がっており、それ以前からクオリティの高い作品を作り出していたのにも関わらず、ココ最近の突出ぶりは目を見張る物があります。逆にピクサーのほうがおざなりになっているような気がしないでもないw
去年の『ズートピア』もちょっとどうかしてるという感じの傑作でしたので、さすがに連続でそんなに傑作は続かないでしょうと。ところが、今回の『モアナと伝説の海』は、こちらの浅はかな思い込みを蹴散らすような傑作でした。始まって数分で「これはマズい……」とハラハラしてしまうほど。
まず、いつもながらのディズニーミュージカル路線の復活とも言うべき、「古典的」なほど歌いまくるスタイルをふまえた上で、その作劇がすべて「テーマ」に直結しており、それを観客に遠慮なく叩きつけてくるストロングスタイルだったことです。「テーマ」という言葉が現在持っている形骸化された胡散臭い抽象的なイメージではなく、芸術作品が「拠り所」として用いる本来の「テーマ」。この作品の「テーマ」は、観ていて誰でも100%受け取ることができるのがまず素晴らしい。なぜ100%受け止めることができるかというと、作品がその「テーマ」を観客に伝えることに100%奉仕しているからです。これこそが「表現」というものなんでしょう。
人類に備わった「探究心」という衝動。人類が人類である所以でもあるこの抗えない「衝動」をこれだけ端的にストレートに美しく感動的にワクワクドキドキと描くことの至福さ。
物語を構成するピースの感動レベルが異常に高いのも特筆モノで、なかでも「おばあさん」の一連の描き方(エイな!)と、その後要所要所で縦糸のように絡んでくる感動はその都度涙がほとばしる。
ビジュアルがそのまま主人公を前へ前へ、上へ上へ、下へ下へとそのままストーリーの起伏を彩っており、まさにこれぞ「映画」だという矜持が胸を打つ。
<以下ネタバレを含みます>
中でも衝撃的だったのは、ラスボスとも言うべき溶岩の化物が、実は最終的なゴールであり「母なる島」そのものだったという、「完璧」な収れんのさせ方です。あの一連の「最終試練」と、それに立ち向かう主人公の行動が「物語」という特性とそのままリンクした美しさは、これが傑作でなければなんなのかというレベル。物語のクライマックスというのは、まさに「こうあるべき」という手本のようなアイデアだったと思います。
また決着がついたとたんに「アルカイックスマイル」のようにほほ笑みを浮かべて、今まで「殺す! 絶対にコロスマン」だったのが一変するのも実に「人間を超越」した感覚を何のノイズもなく観客に伝えた挙句に、そのまま寝転がって「島」そのものになってしまうという。宮﨑駿が泣いて悔しがりそうなぐらい「それしかない」という「そのまま」な描き方を衒いもなく見せてくれる。
そして、主人公は相棒と別れて、元いた場所に戻ってくる。
そうなんだ、「物語」というものは、本来こういうシンプルな構造が一番強靭なんだということを再確認させてくれるとともに、それをここまでシンプルかつ面白く描くためにはどれだけの努力が必要なのだろうという事を再確認させてくれる作品でした。
強くオススメします!
【追記】
またチキンのキャラがいいんですよねえ。これ見よがしに登場してきた可愛い相棒キャラの子豚じゃなくて、あの全く何の役にも立たないチキンが旅についてくるという「現代性」が素敵でした。あの慈愛に溢れた「海」にまで「おとなしく引っ込んでろよてめえ!」とばかりに扱われる始末w 世の中に必要のない者などいないというのがこれまたストレートに伝わってきますよね。