(500)文字のレビュー『オリエント急行殺人事件』★★★「超有名な【フーダニット】作品であるので、知らない人は厳重に警戒してサッさと観るべし!」

『オリエント急行殺人事件』(Murder on the Orient Express)★★★

吹替版で鑑賞したのですが、ポアロの声の人がやったらポアロ声だなあと感心していたら、最後のクレジットで草刈正雄さんだと分かって椅子から転げ落ちました。素晴らしかった。古畑にネチネチいじくられていたのは無駄じゃなかったんですね。

近年ハリウッドのジャンル系映画にも招聘され、監督として「起用」にこなれた腕前を披露し続けてきたケネス・ブラナー。本来はイギリス演劇界が誇る大物であるし、若い頃から映画でも『ヘンリー五世』で注目を浴びたような人である。今回のアガサ・クリスティの古典的名作を映画化するにあたって、持ち味を遺憾なく発揮した演劇的スタイルと、特殊効果を効果的に使った雄大かつロマンス溢れる汽車旅行の旅情との融合がお見事

私事になるが、筆者は「ミステリー健忘症」という特殊な障害の持ち主である。半分冗談半分大真面目な話なのだが、(それほど多くを読んだり観たりしているわけではないにしろ)ミステリーというジャンルの肝である

  • 【トリック】
  • 【犯人】
  • 【被害者】

こういった要素をことごとく失念してしまうのだ。

もちろんメリットは再読したり再見したりする楽しみが常にあるというわけだが、すでにそれを読んでいたり観ている人と共通の話題になった時、肝心要のそういったところをスポっと忘れてしまっているので、微妙に話が噛み合わなかったり「はいはいアレね(なんだっけ……)」というあるあるを演じることになってしまう。

そんな筆者でも、【犯人】を憶えている作品がある。

それが世界で最も有名と言っていい【フーダニット】モノであるアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』と、今作『オリエント急行殺人事件』だ。

とにもかくにも「ネタバレ」される危険性が特に高い超有名作なだけに、まだ何も知らない方は早く読むことをオススメしたい。わたしも高校の頃にその危険性を指摘され、慌てて読んで驚愕したものだ。

実は原作は未読なので、筆者の『オリエント急行殺人事件』のネタ元はすべてこのシドニー・ルメット監督版である。中学生の頃に「日曜洋画劇場」で放送された時は、冒頭の「幼児誘拐事件」のあらましがトラウマになるほど怖かった。とにかく不気味な音楽と、本編の明るい雰囲気からはかけ離れたとても正気とは思えない気味の悪い「荒れた新聞の写真」、薄気味の悪い再現映像の羅列が強烈。あれ単独で、後続の恐怖映画に与えた影響も少なからずある気がする。

まあこの凶悪な怖さをとくとご覧あれ。日曜の夜にコレを突然観せられた子どもの気持ちを察していただきたい。
それくらい有名な作品とはいえ、やはり古典は古典。当然若い人たちは見事に【犯人】を知らないままこれが初めての鑑賞という場合もあるわけだから。新作として映画化する意義は大きい。

ハリウッド娯楽路線を任されていても、ヘタに長大な大作路線に陥ること無く2時間以内に収める職人気質は今作でもキチンと守られており、非常に口当たりの良い逸品に仕上がっている。

とは言え、ケネス・ブラナーはかつて『ハムレット』という渾身の超大作を手がけており、70ミリ撮影&4時間2分という超ハイカロリーな代物だったりする。なので、今作でもサラっと再び70ミリ撮影で製作されており、今回2Kマスターでの鑑賞となったが、ポテンシャルを十分感じさせる芳醇な映像を味わえた。鑑賞可能であるなら是非とも4K上映が行われているスクリーンを探しての鑑賞をオススメしたい。

【114分/シネマスコープ・サイズ/2K(オリジナルマスター4K)/吹替版】

当然のように原作が読みたくなるし、やはりアガサ・クリスティの小説を全部読破したくなりますよね。元気のあるうちに一度はトライしてみたい。

『ランボー』の同時上映で鑑賞した『地中海殺人事件』が初めてのクリスティー作品だったので、筆者の中ではポアロはピーター・ユスチノフのイメージが強い。彼がポアロを演じた2作と、同スタッフで作られた『クリスタル殺人事件』をセットにした商品。

スタッフや製作会社は変わったがユスチノフがポアロに続投した作品。未見なので機会があれば観てみたい。

『マイティ・ソー』の一作目がケネス・ブラナー監督だったことも今となっては笑い話のようであるが、その起用の慧眼さは当時から驚かされた。個人的に「田舎の町で大変なことが起こる」ジャンルの映画として愛すべき作品だ。

当然役者としても魅力的なケネス・ブラナー。彼がローレンス・オリヴィエに扮し、マリリン・モンローに振り回されるコメディリリーフが素敵だった。今をときめくエディ・レッドメインを初めて認知した作品です。大好きな映画。

ケネス・ブラナーがドンと大黒柱のような存在感を発揮した傑作。

正直観るのに相当なエネルギーを必要としますが、そのパワーと圧は一見の価値があります。この作品が商業的にあまり成果を挙げられなかった事が、ケネス・ブラナーがハリウッドで職人監督への道を歩まざるを得なくなったのは皮肉な事です。なので、少しずつ本来の持ち味である今作のような作品が成功してほしいと思います。

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