(500)文字のレビュー『PとJK』★★1/2「LGM(ローティーン・ガール・ムービー)に作家性を積極的に持ち込んだ廣木隆一監督最新作」

『PとJK』★★1/2

これ以上無いほどコテコテの【LGM】としてのマーケティングが全開のポスターなどなど。ところがどっこい廣木隆一監督作品は一味違う。

メインカラーのピンク、ヒロインとイケメンのツーショット、柔らかいタイトルフォント、などなど、どこを切り取ってもTHE【LGM】(ローティーン・ガール・ムービー)として微塵もブレのないマーケティングに則って作られ宣伝されている今作。

筆者が勝手に【LGM】と名付けて集中的に鑑賞している「この手」の映画。まだ半分ぐらいしか消化できていませんが、乱暴な定義をするなら「普段映画を観に来ない層」をターゲットにしたプログラムピクチャーの新ジャンルということになります。こちらに関しては近いうちにまとまったコンテンツを書こうと準備していますが、こういったプログラムピクチャーの場合、監督には「手堅く」作ることができる「職人監督」としての手腕が求められてしまう傾向が見えてきます。

そんな中、【LGM】としての記号性やストーリーラインなどなどを的確に守りつつ、「ん? なんかちょっと違うぞ」と思わせてくれる映画が『ストロボ・エッジ』と『オオカミ少女と黒王子』の二本です。まず最初に観た『ストロボ・エッジ』は、ほとんど【LGM】として過不足のない作りの中で(制約と言ってもいいかもしれません)、やたらと「逆光」を多用した、「品のある画作り」が全編に多用されていました。監督は廣木隆一。調べてみて一番驚かされたのは現在63歳という年齢です。作品数も多く、商業作品とインディーズ作品を行ったり来たりしている監督というラインナップです。不勉強で筆者は近作しか観ていないのですが、明らかに「どうして、『ストロボ・エッジ』に起用されたの?」としか思えないような経歴です。

そんな廣木隆一監督の「プログラムピクチャーだからって手を抜かないぜ」という意気込みが強力な圧となって画面に充満していたのです。『ストロボ・エッジ』のヒットを受けて、次作でも再び【LGM】として『オオカミ少女と黒王子』を監督。これがまた序盤の長回しやストップモーションなどなどで、「ああ、明らかに一味違うな」と思わせる演出を見せてくれるのです。

もともとプログラムピクチャーというカテゴリーは、新人監督や(言葉は悪いですが)二軍監督が、その商業的特性(作家性を求められていない)を逆手に取って、好き放題にした結果カルト化する作品が多く生まれる特性も持っています。

そういった特性の中で、特に記号性や制約の多いと思われる【LGM】でも、何本も「ひと味違う」作品が生み出されてきています。そういった作品群の中でも、「制約」をやったらとキチンと外さないまま、「演出」や「画作り」などなどの脚本以降の作業で「作家性」を盛り込んでくるのがこの廣木隆一監督が近作で成し遂げていることだと思います。

そして、今回の『PとJK』 上述の2作と並べても負けず劣らない【LGM】感が特徴的な上に、「女子高生と警察官が結婚する」という泣く子も黙るような設定の上に作られています。逆に言えば「高校生の普通のロマンス」ではないわけで、2作と較べても明らかにコメディ寄りにするほか道がないようなフィクションラインの高さが要求される内容です。

ところが、序盤の「夜の函館市内」のシークエンスからして「これは!」と思わせる映像が続出。「街灯を入れ込んだ街路」を効果的に映像に取り込んだ「引き絵」のなかで「後ろ姿のままの二人」を捉える絵や、続く真っ昼間の函館でも、有名な坂道を自転車で下っていくヒロインを「映画館で観ることが前提」としか考えられないような「引きの絵」でフォローしていったりします。とにかくビジュアルパートのクオリティが要するに「マジ」なのが凄いんです。まったくコメディ寄りの逃げの方向性に持っていかない。

要するに「火星人が襲来してきた!」という内容を、ドシリアスに映像化したスピルバーグの『宇宙戦争』や、「怪獣が現れた!」という内容をド真面目に映像化した庵野秀明の『シン・ゴジラ』などと志がまったく同じなのです。「警察官が女子高生と結婚する』という内容を、【LGM】という規則の中で極めてストレートに映像化してみたという意欲作になっていました。

やはりといいますか、当然「いびつ」な部分も生まれてしまい、作劇も危うい部分も見受けられるのですが、それでも廣木隆一監督の【LGM】だからこそ全力でやるぜという志の高さは評価せざるを得ません。

【追記】

主演の亀梨和也さんが、わたしには阿部サダヲとほぼ同じようにしか見えなかったことが、不本意なノイズになっていたことを関係者各位にお詫びしなければいけません。あんな綺麗な顔の男性も珍しいハズなのに……

土屋太鳳さんもやったらと健康的に撮っていて、色気がほとんど感じられなかったことを考えると、明らかにそういうロマンス的な事を今回は重視していなかったのかもしれませんね。

そう考えると『ストロボ・エッジ』でおっそろしく可愛く撮られていた有村架純さんは珍しい例だったのかもw

【124分/ビスタサイズ/2Kマスター】(イオンシネマ板橋12番スクリーンにて鑑賞)
スポンサーリンク
スポンサーリンク