『プリズナーズ』(Prisoners)★★★1/2

極めつけのポール・ダノ映画としても料金以上のムカムカを堪能させてくれる逸品。
今もっとも注目されている映画監督は誰かと問われれば間違いなくドゥニ・ヴィルヌーヴ監督ではないでしょうか。名前だけは(その覚え難さも含めて)「灼熱の魂」あたりから脳の片隅には入っていましたが、個人的にはこの『プリズナーズ』がアメリカで公開されたあたりから、気にはなっていました。
それでも、生来の向上心の無さのせいで、結局ドゥニ監督の作品を観たのは『ボーダーライン』が最初になってしまいました。果たして『ボーダーライン』にはかなり打ちのめされたのですが、やはりそれでも過去作を観てみようというところにはいかず(まったく情けない)、遂に先日の『メッセージ』を観たおかげで今回ようやく過去作に手を付けることにしました。
そうしたら、いきなりこの『プリズナーズ』で再び打ちのめされてしまったというわけです。
まず、幸か不幸か「子どもが誘拐されて、親父のヒュー・ジャックマンが凄い形相でなにかやらかす」という情報しかインプットされておらず、あとはジェイク・ジレンホールが刑事で出てくるというぐらい。
これが結果的に功を奏しました。
例によってドゥニ監督の好みであろう「カリカリのパッキパキ」な低温かつ陰鬱な映像を、『ボーダーライン』や次に控える『ブレードランナー2049』でタッグを組む名手ロジャー・ディーキンス撮影監督が全編に炸裂させまくっているので、それ自体がこちらにとってはミスディレクションになってしまうという。つまり、あまり「サスペンス・ミステリー」としてのシナリオの面白さというものにそれほど比重をおいて観ていなかったわけです。
ところが、結果的に153分という現在の自分にはいささかしんどいランニングタイムの2時間を楽しめた上に、クライマックスに至って突如「ミステリー」としての醍醐味を堪能することができたからです。
いや、まさか(言葉が悪いですが)ここまでちゃんとしたサスペンス・ミステリーになっているというのは嬉しい誤算でした。脚本のアーロン・グジコウスキは初めて聞く人ですし、調べると他には数作しかないようですが、今後要チェックといえますね。
ドゥニ監督はビジュアル主体のような監督だと勘違いしがちだったのですが、ちゃんとエンタテインメント作家としても作品をコントロールしているんだということが現在観た3作でもハッキリと分かります。
しかも、恐らく本人自身が得意としているであろう「なんでもないカットでも緊張感がみなぎる」という手法がハマル作品にも恵まれていますよね。
そして、『ボーダーライン』『メッセージ』『ブレードランナー2049』とタッグを組むことになる音楽のヨハン・ヨハンセンも抑えに抑えながらも「不穏」そのものの音楽を見事に作っています。これを一気に展開させたのが『ボーダーライン』なのは明白。この映画ではまだ「サスペンス映画」っぽく作っている感じが残っていますからねw
キャストに至っても、ヒュー・ジャックマンとジェイク・ジレンホールというメジャー映画に出つつも実力抜群の役者が見事にハマっており、ヒュー・ジャックマンは文字通り「鬼気迫る」形相で画面をピリピリさせています。特に目の縁が充血している「血走った目」をそのまま体現しているのが凄い。ジェイクにしても毎度いつものジレンホールという感じで、アテになるのかならないのか終始はっきりしないという雰囲気が抜群に効果的。
そんな中いちばん光っているのはやはり容疑者として登場するポール・ダノでしょう。まあ、もともと出るたびに「なんだかムカつく」という特性を遺憾なく発揮している役者さんで、その筋では『セッション』のマイルズ・テラーと覇権を争うレベルの「なぜか」具合。そんなポール・ダノをキャスティングしたことにより、ジレンホールはまだしも、人類の中でも最高峰レベルの善人であるヒュー・ジャックマンすら「見ただけで掴みかかって犯人扱い」してしまうという無茶さに説得力をもたせることに成功。あの顔でもムカつくのに、でかいメガネをかけさせるとか、製作側の底知れない悪意を感じざるを得ない。
↑職質まったなしのツラ&メガネ
しかも、そこに加えて第二の容疑者として「ダークナイトでアーロン・エッカートに監禁されて脅されるアイツ」「アントマンの見ただけで軽犯罪者だとわかるペーニャの相棒」などのデヴィッド・ダストマルチャンまで配する念の入れ方。
↑そりゃジレンホールもひと目で疑うって。
こういったキャスティングも含めた「映像」でのミスリードなどを含めて、ドゥニ監督の「映画監督」としての資質をまざまざと感じさせてくれる傑作でした。
Prisoners (Original Motion Picture Soundtrack)