(500)文字のレビュー『スパイダーマン:ホームカミング』★★★1/2※CULT「大いなる責任なんかにかかずらわらないヒーロー未満の傑作冒険譚」

『スパイダーマン:ホームカミング』(Spider-Man: Homecoming)★★★1/2※CULT

ダッサダサの切り貼りコラージュを模したIMAXのポスター。本編のノリはまさにコレ!

観ているあいだじゅう延々と「なんて楽しいんだ!」と、心ワクワク中学生のような気分に舞い戻れる至福の映画体験。

この大いなる学園コメディの傑作は、果たして一朝一夕にデキたものではない。サム・ライミ版のトビー・マグワイアが演じた「心底ツイてない、観客全員が同情の涙を流さずにはいられない」ピーター像は当然として、「世界一の不憫」と異名を取るアンドリュー・ガーフィールドの、「不憫が蜘蛛のコスプレして活躍する」アメイジング版もあってこそ成立できた作品だ。

加えて今回はマーベル・ユニバースという巨大な後ろ盾もあって、商業的な成功をはなから約束されているからこそ、本筋から外れることの軽妙さが見事に学園コメディとしてのスタイルと合致している。

果たして、(大変嬉しいことに)今作ではベンおじさんの死は描かれず(名前すら出てこない)、ピーターは功名心に駆られて何とかヒーローとして名を成そうと頑張る青二才として描かれる。序盤のピーターの自撮り画像で世界観とキャラクターを一気に観客に分からせるスマートさと面白さは、ロバート・ダウニーjrの起用という保険を抜きにしても大いに観客を楽しませ、その世界に引き込んでくれる。

この完璧な風体!このケミストリー!!「ピーターはスパイダーマンと友だちなんだぜ!」←なに言っちゃってんだテメー!www

今作の学園コメディとしての面白さを際立たせているのは、ピーターのオタク仲間ネッドの存在。序盤でいきなりスパイダーマンである事がネッドにバレるピーター(あのベタベタなバレ方w)。ネッドは子どもが一度は夢見るであろう「ダチがヒーローだった!」という当事者に昇格。そのウキウキさと「絶対にバラしちゃうよ!」と宣言するような浮足立ち方が絶品。文字通り観客の代行者としての立場を思う存分堪能してくれる。

そして、メイおばさん史上もっとも色気ムンムンのマリサ・トメイ(常に男どもから色目を使われるw)。彼女の芝居に託した簡潔な「悲しい出来事」の匂わせ方や、ソレを経た2人の関係性も、それこそサラっと分からせる絶妙な配分。そして何よりまさかの「ヒロインは実はメイおばさん」というトリッキーな設定!

さらにトム・ホランドのキャスティングが絶品。お約束の終始軽口を叩くスパイディと、「お前はデップーかよ」とでも言いたくなるような一人コント状態を延々と続けても嫌味にならないピュアさ。ピーターというキャラの持ち味である、マスクを脱いだらスクールカーストの下層に位置する平凡以下の高校生という説得力。

シナリオ面での強度も極めて重要。総勢6人もキャスティングされている(実際はもっと大勢関わっているだろう)シナリオがやったらめったら面白い上によく出来ている。

中でも白眉なのは、先述した学園コメディとしてのクオリティが異常に高いことが、実は大いなるミスディレクションになっていた事が分かる第二幕のターニングポイント。

<以下ネタバレを含みます>

パーティーの相手に誘ったヒロインの家にピーターがおめかしして訪ねるシーン。ドアを開けると今作のヴィランであるマイケル・キートンが顔を出す瞬間。今までの学園コメディのノリにすっかり油断させられた観客のスキをものの見事に突いてくるアッと驚く展開。あそこまで場内の空気が一変するのもここ何年感じたことのない素晴らしさ。

まさに「してやったり!」というシナリオ・チームのニヤリが目に浮かぶようだ。(また、アメリカならではの、「黒人の娘」と「白人の父親」という先入観もキレイに機能している)

しかも、マイケル・キートンが得意とする「軽妙な雰囲気の中に滲む狂気」がここで遂に頂点を迎え、徐々にクローズアップになる教科書のようなレンズ処理も相まって、ピーターとの緊張感を観客に同調させる。

そして、マイケル・キートンの芝居に全権を託した車の中での対決。今まで笑って楽しく映画を楽しんできた観客を第三幕に叩き込む見事な展開だ。

加えて!

筆者個人がもっとも愛する「ヒーローが序盤で着ていた、お手製のダサいスーツ」をクライマックスで身につけるというアクロバティックさ!

この底抜けのDIY感!トビー・マグワイアのヒューマン・スパイダーに負けず劣らぬダサさと親近感。

サム・ライミ版の「ヒューマン・スパイダー」、アイアンマンの「マーク1」などなど、筆者はヒーローがお馴染みのスーツに身を包む前のダサい姿がとにかく大好きなので、クライマックスでの活躍は、まさに「ピーター」がほんとうの意味でヒーローになる瞬間を完璧に描いているようで感動に魂が震えた。

「スーツに頼る人間にスーツを着る資格はない」という、恐らくトニーがその場で思いついて適当に言ったに違いない説教を、正にピーターが自覚的にヒーローとなる展開に絡めてくる。

ロッカーの下に隠していた昔の手作りスーツをガバっと着て出陣するピーターに涙がチョチョ切れること請け合い。そして、コンクリートの下敷きになり、「泣き声になって必死に助けを呼ぶ」ピーターが、水たまりに浮かぶマスクとそこに映る自分の顔を(半々になっている!)見ることで、「お前はスパイダーマンだろう!!」と自分を叱咤して自らそのピンチから抜け出す熱すぎる展開。地の底から復活し、文字通りヒーローと化して飛翔する姿のド直球の盛り上がり。

しかも、友だちのネッドがずっと憧れていた、「座っているヒト」(主人公と電話で話して分析や助言をするお約束のキャラ)になってしまう痛快さ。パロディという言葉ではくくれない青春学園コメディとしての面白さ。

最後にマリサ・トメイが全部美味しいところを持っていくお約束の終わり方も含め、観終わった後の多幸感と満足感は近年ではなかなか味わえない。ヒーロー物のスタイルを借りた、「若者の成長譚」として見事に成立させた傑作だ。

それにしても、キャプテン・アメリカの扱いw

あんな仕事もしなきゃいけないキャップに同情を禁じ得ない。

クリス・エヴァンスはいつも完璧な使い方をされる。

【133分/シネマスコープ・サイズ/3D吹替/2Kマスター】

マーベル・ユニバース映画の常として、シリーズ作品を観ていないと世界観がわかりにくいというところがやはり今作にもあります。最低限この2作は観ておいたほうが楽しめるでしょう。

サム・ライミの傑作トリロジー。1作目のダサいスーツ姿の「ヒューマン・スパイダー」から、一躍ニューヨークのヒーローとなるワクワクさが充満する傑作。そして、何と言ってもアメコミ映画史上に残る傑作と名高い『2』も必見。

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