『スプリット』(SPLIT)★★★※CULT

主人公を演じるアニャ・テイラー=ジョイさん。日本公開が待たれるホラー「VVITCH」で注目された女優さん。彼女を問答無用に美しく撮影する映像に、シャマランの脱童貞を感じさせる。
先日インタビュー企画に当選したおかげで、来日中のシャマラン監督とマカヴォイ氏に質問をすることができました。その時筆者は以前からずっと気になっていたので、「シャマラン監督が用いる重要なモチーフに【子どもの視点】がありますが、あれにこだわる理由はなんでしょう?」と質問してみました。答えは「子どもがマジックに気づき、夢から覚めてしまう寂しさを、自分の作品に組み込んでいる」とのこと。個人的に非常に納得のいく答えでしたし、今作においてはさらに大きくそこに踏み込んでいたので驚かされました。
シャマラン監督作品は(一部を除き)基本的に「B級映画でよくある題材を、超A級のクオリティで製作する」というものなのですが、これを上述の答えに照らし合わせると腑に落ちるわけです。「子ども(我々のような精神的に幼稚な種族も含む)が喜ぶような題材を、極めてリアリスティックに描くこと」と考えることもできます。そして、本編にも直接的な視線として「こども」が配置されているというわけです。
それを踏まえた上で、今作は「多重人格」だの「女子高生誘拐」だのというパーツから容易に推察できるように、B級ホラー映画の題材そのままのといってもいいでしょう。そして、前作『ヴィジット』によって回復した興行及び批評的な評価も踏まえて、遊び抜きにシャマラン監督がもっとも得意とする「サスペンス」演出が全編を貫き通します。
いつもであれば、「それ必要か??」というような、「なんだ、そりゃ?」というギャグ(これがファンには応えられないんですが)が挿入されるのですが、今作では殆どそういった要素は排除されています。唯一の笑いどころはお約束の監督自身のカメオ出演ですが、これだって知らない人が観ればただの脇役に過ぎません。
転じて今作のサスペンス演出がまたさすがの上手さで緊張感が高まる高まる。加えて、『ヴィジット』ではPOVという手法故に抑えられていた「カメラで語る」シャマランショットが要所要所に炸裂します。冒頭の車のシーンでの二往復するドリー撮影、お約束の螺旋階段をカメラを回しながら撮る、逃げるヒロインを画面中心に据えることで消失点を隠して追手の姿を見せない、などなど。また、今回(極めて重要な意味があって)シネマスコープでのアスペクト比で作られているのですが、広角レンズの接写を使ってヒロインを美しく捉えるシャマラン監督にはしては大変珍しいショットもみられます。もっとも、これは『イット・フォローズ』でも印象的な撮影を披露したマイケル・ジオウラキスの功績も大きいと思います。
ヒロインの持つ謎などが大きく先程のモチーフを関係していたりして、そのままシャマラン監督作品として、一歩階段を上ったような印象も持ちます。
シャマランも大人になったんだな……そうなんだな。というような劇画オバQ的感慨を持ちながらエンディングを迎えていたら………
<以下ネタバレ要注意!>
ふいに聴き覚えのある哀愁漂うメロディが。そうシャマラン監督作品の中でも特別素晴らしい『アンブレイカブル』の、ジェームズ・ニュートン・ハワードによるメインテーマ(ほんといい音楽なんですよ)。最初は「まあ、自作だから使いまわしもアリだけど、なんの意味があるの?」と思っていたら、最後の最後になんと、あの『アンブレイカブル』の主人公であるダンが!(もちろんブルース・ウィリスがちゃんと出てくる!)
Twitterでも告知された次回作『ガラス』(アンブレイカブルの続編)が、なんと『スピリット』の続編としても機能するというウルトラアクロバティックなどんでん返し!
『アンブレイカブル』はヒーロー映画を踏襲してシネマスコープサイズで作られていました。だから、『スプリット』もシネマスコープサイズだったというカラクリです。
シャマラン監督が大人の階段を上ったと言ったな?
ありゃ嘘だ。
ヒャアアアアアア!
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