(500)文字のレビュー『ディストピア パンドラの少女』★★1/2※CULT「序盤の”ただならぬ感”は120点満点、そして”ただならぬサントラ”は必聴」

『ディストピア パンドラの少女』(The Girl with All the Gifts)★★1/2※CULT

主人公のメラニーを演じるセニア・ナヌマさんは「ゾンビと天才少女のハーフ」という古今東西例のないキャラクターをピュアに演じていて驚かされる。

世の中に「ゾンビ映画」が溢れかえってもう何年にもなります。遡ればロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が公開された当時ですらイタリア映画の『悪魔の墓場』がいきなりパクって公開されていましたし、ましてや『ゾンビ』のあとなどありとあらゆる種類のゾンビ映画が各国で作られていました。とはいえ、21世紀になってからのゾンビ・ブームはそんな次元を超越し、一つの「ジャンル」になってしまっている感じすらあります。

そんな中イギリスで作られた本作は、一見普通の「ゾンビ映画」にありがちな設定やモチーフを随所に盛り込みつつ、ホラー映画の殻をかぶったSFとして独特のアプローチをしてきた作品でした。

イギリスの終末SFには独特の共通点があるようで、個人的な感覚としては「もう終わっちゃってるんだから足掻かない」という諦観にもにた雰囲気を感じます。筆者が読んだ作品でも名作『トリフィドの日』には強烈にそういう匂いが感じられました。

近代ゾンビ映画の代表作とも言える『28日後…』や、ゾンビ映画そのもののフォーマットに多大な影響を与えている名作。流星群を見た人たちがみんな盲目になってしまったとき、人食い植物トリフィドが街に逃げ出して大ピンチに。主人公が手術のために病院にいたお陰で流星群を見られなかったのがポイント。そもそも原題の『Day of the triffids』からして、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』への影響は明白。今作とリチャード・マシスンの『地球最後の男』から当時のロメロたちがインスパイヤされたとされるのが現在の定説。

序盤、「どこかの薄暗い軍事施設らしい」場所で、車椅子に拘束された子どもたちが軍人に銃を突きつけられる厳戒態勢の中、独房から寒々とした教室のようなところに集められる。このタイトル・シークエンスの「尋常ならざる感」がとにかく強烈。クリストーバル・タピア・デ・ビアーという人が作った「禍々しさ」極まる音楽の中、まったくなんの説明もないまま展開する様は文字通り息を呑むルックスを成功させています。

惜しむらくは、ソレ以降がいわゆる近代では大量に製作されている「走るゾンビ」などのモチーフから突き抜けることがなくなるのが残念。

とはいえ、ソレを補って余りあるサントラの凶悪な不気味さと、独特の設定を使った「奇妙なエンディング」は一見に値する作品。

実は『光る眼』や、ひいてはクラークの『幼年期の終わり』なども思い出させてくれるという意味で、割りと純粋なSFとして捉えるべき作品なのかもしれません。

まあ、それでもホラーなのにあまり怖くないというのは致命的なのかも。

それでもサントラですよ! サントラは絶対に聴くべきです。

この念仏のような音楽が終始画面に異様な緊張感を生み出しています。まだこんなアプローチがあったのかと衝撃をうけること請け合い。

【111分/ビスタサイズ/2Kマスター】(バルト9スクリーン7にて鑑賞)

なんといきなりアナログレコードまで出ています!

原作小説も文庫化。こちらも大変気になりますね。

『28週後…』の「冒頭の億万点感」は今作でも正しく継承されています。逆に言うと、冒頭が凄すぎて竜頭蛇尾感が強くなってしまうというジレンマを抱えていますね。

ジョージ・A・ロメロの「ゾンビ映画」の原典。トム・サヴィーニによるリメイク版も傑作。これを見ずしてゾンビ映画を語るなかれと断言できる作品。『桐島、部活やめるってよ』の前田が「ロメロも知らない」先生に食ってかかりたくなる気持ちが観ていれば分かります。

ジョン・ウィンダムのこちらのSF小説も、「ポストゾンビ映画」を語る上で上述の『トリフィドの日』と並ぶ重要な作品。思うに、「こども」が大人にとって「愛すべき存在」ではなくなるというのは普遍的な恐怖なのかもしれませんね。今回の作品も大きく影響を受けているのかもしれません。

こちらも「ポストモダンゾンビ」を語る上では決して外せない重要作品。ご存知リチャード・マシスンの初長編小説。「パンデミックによる人類の全滅」「それによる吸血鬼による支配」そして「ただ一人残った人間」という、どこをどうとっても完璧な設定がこの一作に叩き込まれている事がただただ凄い。

そして、『地球最後の男』をベースに藤子・F・不二雄先生が描いた短編がこちらに収録されている『流血鬼』で、筆者が藤子・F・不二雄先生のSF短編の虜になった一作です。必読!

スポンサーリンク
スポンサーリンク