(500)文字のレビュー『ワンダーウーマン』★★★1/2「男女問わず普遍的な”上京物語”としてのワクワクと挫折と成長」

『ワンダーウーマン』(Wonder Woman)★★★1/2

ガル・ガドット演じるダイアナが初めての都会でおめかしを覚えるシークエンス。暴力的なまでの可愛さ。挙句にこのメガネで完全にノックアウト。当時から一昔前までは、「メガネ」は不細工の記号として機能していたことへの皮肉。

DCユニバースの新作『ワンダーウーマン』は「上京物語」の傑作でした。

例えば『スター・ウォーズ』一作目がそうであるように、「神話」をモチーフにしようがなんだろうが、「田舎でくすぶっていた若者がひょんなことから地元を飛び出す物語」というのは、老若男女古今東西問わず普遍的な物語のテンプレートであります。

それはディズニー・アニメの傑作『モアナ』でも描かれていたように、人間の持っている「探究心」という素晴らしい衝動があるからではないでしょうか。「いやあ、やっぱり地元が一番」と思えるのも、実際に飛び出してみて様々な体験をしてこその感慨だと思いますし。

果たして、今作『ワンダーウーマン』

ヒーロー映画としての「誕生譚」ということにかこつけて、今作は気持ちよいぐらい「上京物語」としての類型が叩き込まれています。

  • 「世界から隔絶された島」=「市内に出るのにバスで1時間」
  • 「男を見たことがない」=「外国人を見ただけで写真を撮ってしまう」
  • 「助けた男と連れ立って遂に船出」=「都会からやってきたカメラマンを好きになって適当な理由をこじつけての上京」
  • 「塔から島の宝であるゴッドキラーを奪い一張羅を装備してきたのに、ロンドンではみんなからジロジロ見られて慌ててロンドンファッションに着替えさせられる」=「ジャスコで買い揃えた一張羅をバカにされ、慌てて109でお買い物」

というように、ワンダーウーマンではなく(実際そう呼ばれることはない)ダイアナ・プリンスが島を出て都会に失望し、一生懸命働いたのに報われず、それでも愛情に支えられて独り立ちするという上京&成長物語になっています。

ヒーロー映画の「誕生編」となる一作目の問題として常に取り沙汰される「ヒーローの活躍までの時間が長い問題」は、個人的にこの「誕生編」というべき作品を偏愛している人間としてまったく問題だとは思えません。なぜならその「助走」部分があってこそ中盤以降の大活躍が盛り上がるわけですし、そのために今までの「誕生編」ではそこに至る前半部分に工夫をこらしています。それをいったら『エイリアン』だって『エイリアン2』だってエイリアンが出てくるのは1時間以上経ってからです。

今作ではそれを「上京物語」として描くことで「モたせる工夫」をしています。事程左様に、中盤のロンドンのシークエンスは、ダイアナの着せ替えエピソードや、「可愛すぎるからかけさせたメガネが余計に可愛くなってしまった」という水爆級の萌えパートもあったりで、大変ワクワクと楽しいことになっています。

作品中随一のテンションを誇るワンダーウーマン西部戦線大暴れ。博愛精神など微塵も持ち合わせていない「敵だと思う奴らは皆殺し」スピリットが激アツ。良かれと思ってという若者にありがちな善の暴走が実に清々しい。殺されるドイツ兵はたまったもんじゃありませんがw

だからこそ、そこから徐々に「西部戦線」に舞台を移していく過程で、ダイアナが「戦争」の悲惨さを目撃していくパートが活きてきます。この作品のストーリーラインのベースが「若者が上京して社会の厳しさに直面する」と言うものだとすれば、「戦争」という「人間の原罪」を問うような愚かな状況に直面するのは、主人公が神に等しいヒーローとしては「それぐらいの厳しさに直面しないとな」という感じで。

実際問題「元凶となる戦神アレスをやっつければ、ドイツの人たちも解放される!」と目をギラギラさせながら、遠慮なくドイツ兵を皆殺しにしていく「屈託のない狂気」あたりは「おお、神様感あるじゃん!」とw

それにしても、母親から託されたシンボルをモゾモゾと身に着けて、いよいよ「あの服装」で戦場に赴く中盤のシーンでは終始鳥肌がたちまくりで。個人的にヒーロー映画に限らず、フィクション性の高い存在が、リアリティラインの高さを維持した世界観の中に立脚する(し得る)シーンというのは大好物で、『シン・ゴジラ』などは、まさにソレだけのために前半のリアリティラインの高さを維持し続けていると思いますし。今作の西部戦線での「薄暗い殺伐とした灰色の世界」がリアリティ満点に描かれているあたりからして、「これは!」という期待にワクワクし続け、いよいよダイアナがワンダーウーマンに変身(!)しての大活躍には興奮するなという方が無理でした。あの武器や衣装の時代錯誤感をキチンと意識的に強調していて、「第一次世界大戦にヒーローがいたんだ!」という説得力を生み出していました。

話はズレますが、DCユニバースのモチーフになっている「神」と「人間」と「ヒーロー」という物が、実際には「力を持っているだけのすごい存在」=「神」ってなっているのは個人的に結構腑に落ちていて。「神様」と崇め奉る存在であるのは、我々人間が勝手にそれを望んでいるからに過ぎないですし、実際に「人間はソレに似せて作られた」とか言っているぐらいなのですから、神様って人間以上に感情に流されやすいといいますか、「超越」した存在ではないですよね。そういう「神」に肉体性を与えて、結局は力と力のぶつかり合いで決着をつけるステゴロ感覚は(是非は抜きにして)「まあ、そうなるしかないよね」と思っています。

閑話休題

というわけで、前半の「上京物語」としての映画の構造がうまくいっている分、後半のシナリオの雑さは残念な部分でもあります。それでもガル・ガドットという光り輝く逸材を延々見ていられるという単独作品ならではの眼福さや、個人的に大好きなクリス・パインがいよいよ「男性ヒロイン」としての決定打を叩き出したという意味でも、この作品は大変意義深いものであると考えます。

とはいえ、チームを組むならちゃんとチームの活躍の場を作ろうねとは思いましたけどねw 狙撃手スキル活かさないしw

・・・

『バットマンvsスーパーマン』でもっとも盛り上がるのはワンダーウーマン登場のシーンであることに異論はないと思いますが、あの盛り上がりの最大の要因である「ワンダーウーマン」のテーマミュージックが今作でも見せ場でガンガンにかかって盛り上げてくれます。

ところが、本編のオリジナル音楽を手がけたルパート・グレッグソン=ウィリアムズも大変素晴らしい仕事をしており、『ハクソーリッジ』に引き続き、エモーショナルと燃えが渾然としたやたら作品を底上げするクオリティの高い音楽を作ってくれました。

本作のテーマミュージックも実に燃える。

この作品はスーパーヒーローとして覚醒するまでのワンダーウーマン誕生譚として作られた作品ではあるものの、本作が「現代」に生きるダイアナの回想という形式をとっていることからも分かるように、ひとりの若者が誰しも経験する「巣立ち」をテーマにした力強い青春映画として高く評価したいです。

【141分/シネマスコープ・サイズ/2Kマスター/字幕版】

『マン・オブ・スティール』から始まるDCユニバースの2作目という位置づけながら、新生バットマンと今回のワンダーウーマンのデビュー作という側面のほうが強い作品。実際、終盤の本の数十分の活躍ながら、文字通り美味しいところを全部かっさらったワンダーウーマンの大活躍が最大の見所。

DCユニバースの第一作として製作されたザック・スナイダー監督によるスーパーマンの誕生譚。ノーランによる製作やハンス・ジマーの音楽などにより、『ダークナイト』トリロジーの影響下にもある本作。やはりノーランが離脱した『バットマンvsスーパーマン』からDCユニバースは始まると考えても良いでしょうね。

『ワンダーウーマン』のサントラレコード盤。金色のバージョンで実にかっこいい。

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