『大空港』から始まる、いわゆる【パニック映画】というジャンル。英語では【デザスタームービー】ですが、その頂点と言ってもまったく過言ではない作品がこの『タワーリング・インフェルノ』です。これに異論を唱える人はまずいないでしょう。
製作のアーウィン・アレンが、前作にあたる『ポセイドン・アドベンチャー』の大成功によって得た信頼を武器に、今度は20世紀フォックスとワーナー・ブラザースという、ハリウッドの2大メジャー映画会社を提携させて製作した、文字通りの「超大作」
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『ポセイドン・アドベンチャー』の大ヒットによって、「飛行機事故! 豪華客船転覆!! そうきたら次は超高層ビル火災だろ!!!」という中学生イズムを考慮するまでもなく、ハリウッドに限らず映画界というところは、すぐさま「類似作品」を作ろうと躍起になります。
もっとも、観客の方にしても「もっと大災害に翻弄される人間がみたい! 大災害で虫けらのように死んでいく人がみたい!!」という欲求が高まっているわけですから、そこはもう「見世物小屋」時代から一貫して変わらない、売り手と買い手の需要と供給ってわけです。
そこで、2大メジャー会社が揃って「競作」という形になろうとしたところを、『ポセイドン・アドベンチャー』で一発当てたアーウィン・アレン本人が、「それよりも共作にして大きく当てましょうよ!」と大博打を持ちかけたわけですね。
そんなこんなで映画史上初の2大メジャー会社共同制作という、「夢の超大作」が作られることになったんですね。
今ではこういったメジャー会社の共同制作も珍しいことではなくなりました。同じパニック映画の金字塔である『タイタニック』も20世紀フォックスとパラマウントの共同制作です。
そんなアーウィン・アレンの大和魂ならぬ「山師魂」が生み出した「超企画」
普通なら「大味のまとまりのない映画」になるのが関の山になるところを、前作『ポセイドン・アドベンチャー』を傑作に導いた名脚本家スターリング・シリファントが、「2つの原作を一つの映画にする」という、二本分のお金をもらっても願い下げだと思えるような無茶な仕事を今回も見事にやってのけてしまったんですねえ。
成功のポイントは大きく2つ。
まずは舞台をほぼグラスタワーと呼ばれる超高層ビルに固定して、序盤以降そこからまったく舞台を移動させなかったこと。
次に、主人公を2人用意したこと。
つまり、被害者側、つまりタワーの落成式に集まったセレブたちとポール・ニューマン演じる設計部長のダグが、ビルの中の大火災の中を右往左往してドラマを引っ張るパートは前作『ポセイドン・アドベンチャー』同様のパターンを。
そこに「救出側」の「消防隊員」たちを付け足したのが上手い。
結果的に上映時間もほぼ映画二本分の165分になったのは当然のことです。2つの原作を一本したというだけでなく、ストーリーも二本分が絡み合うようなプロットになったのですから。
そして、「消防隊員」側の主人公であるオハラハン隊長を演じたのが、キング・オブ・クールことスティーブ・マックイーン。
スターリング・シリファントのすごいところは、消防隊員側を「一つのプロフェッショナル集団」として描いたところでしょう。「新人隊員が少しビビる」というようなプロットはあるにせよ、徹頭徹尾彼らにドラマは用意されず、ただ黙々と「消化、救助」に従事する姿を描き続けます。逆に言うと、ドラマ部分を「セレブ側」に委ねることによって可能になったともいえますが、このプロフェッショナル集団が黙々と描かれることで、マックイーン演じるオハラハン隊長が超人的な大活躍をするにあたっても違和感を殆ど感じることがないんですね。
オハラハン隊長自身の描かれ方も、「私生活」とかいうノイズは全く描かれず、「現場に現着して、仕事が終わったら帰る」という見事過ぎるストイックぶりです。これもマックイーンが演じたからこそ成立したキャラクター描写ではないでしょうか。現代の映画だったら必ず、「家でハラハラしてテレビを見ながら涙を流す離婚寸前の奥さん」が出てくるところですよ。そういうのが全くない。全消防隊員にない!