なんだか随分間延びした映画ランキングの発表になってしまいましたが、後には引けないのでサクサクとやっていきましょう。
そんなこんなシている間に「キネマ旬報ベスト10」で『この世界の片隅に』が『となりのトトロ』以来28年ぶりにアニメ作品で1位を獲得との報が!
今回は技術部門の発表です。手前味噌ですがインターネッツやSNSで映画の年間ランキングは数あれど、技術部門に言及するようなものはあまりないのではないでしょうか?
とはいえ、言うまでもなくわたしはテクノロジーには明るくありませんし、ぶっちゃけ「音や映像のクオリティ」に関してもそれほど良い目も良い耳も持ち合わせておりません(『アナと雪の女王』でATMOS上映に感動したとブログやツイートに書いていたら、後日「ありゃ嘘だ」とTOHOシネマズ日本橋からメールが来たのはホロ苦い思い出です)。
それでは何が基準になるのかというと、やはりお芝居と同じく「シズル感」ですね。小学生風に言うなら「ぶち迫力あったで」的な。
本場のアカデミー賞では事細かに細分化されておりますが、こちらでは簡略化致しますし、一部の賞に関しましては担当のに人の名前すら省略させていただきます(誰がどの部門で、どの部門が何に貢献しているのか詳しくないのでw)。
まずはざっと選ぶ賞の一覧を書き出します。
- 撮影賞
- サウンドデザイン賞
- SFX賞
- 音楽賞
- そして編集賞
わたしが「映画」という芸術を構成するセクションで明確に判別できるのはこれぐらいです。衣装とかも重要なのでしょうが、自分の着る服すらままならないので……
ではサクサクと。
まずは
撮影賞
ノミネートはこちら!
『キャロル』エドワード・ラックマン
もう『キャロル』の魅力は1/3はこのキャメラなんじゃないかと。主人公テレーゼがカメラマン志望という設定もありますが、16ミリフィルムというキャンバスを選択したセンスや、ガラス窓などの遮蔽物や、現像液のさざなみまで効果的に用いた映像の生み出す「演出」との絡み合いなどが実に上手く、そしてなにより美しい。
『ヘイトフル・エイト』ロバート・リチャードソン
『キル・ビルvol.1』で無理やり香港映画特有の雑なズームとフォースワークをタラに強いられたアカデミー賞受賞監督であるロバート・リチャードソンをまたまた起用。そして、今回はあろうことか「ウルトラパナビジョン70」という大キャンバスを復活させやがりました。『キャロル』が16ミリフィルムを使うのとは正反対のアプローチですが、タランティーノがクリストファー・ノーランと同様「映画館で映画を観てほしい」という熱い決意を感じさせてくれます。ま、日本では70ミリ上映なんてどこでも出来なかったし、やろうともしていなかったようですが……
『リリーのすべて』『ルーム』ダニー・コーエン
エディ・レッドメインを美しく撮るという意味でも撮影部門には強力な要求があったであろうことは想像に難くないですが、それを抜きにしてもデンマークの街などを絵画のように切り取った映像の魅力はイチイチ見とれてしまいます。エディ・レッドメインの肌を敢えて接写してありていの美しい映像にしなかったあたりも効果的だったと思います。被写界深度の浅い映像がリリーの心の不安定さを実に見事に表現していたと思います。
そして『ルーム』では前半の狭い部屋を延々写すのに、あえて横長のシネマスコープサイズを使用するという確信犯的発想。しかも、あの狭いはずの部屋が広々とした「世界」に見えてくるマジック。それが、ラストで「こんな狭かったのかよ!」と驚かずにはいられないミラクルを生み出していました。
『ボーダーライン』『ヘイル、シーザー!』ロジャー・ディーキンス
今だにアカデミー賞が受賞できないくせに、古今東西の誰よりも強烈な映像を毎度毎度作り出している名匠ロジャー・ディーキンス。最終的には007だろうがなんだろうが「美しい映像」に仕上げているくせに、キチンとその作品のカラーやルックス(監督の意図)をしっかり組んだ上でやっているんだから、これだけプロフェッショナルな仕事もないんじゃないでしょうかね。コーエン兄弟の『ヘイル、シーザー!』では肩の力を抜いて好き放題に50年代ハリウッド風のスタイルを存分に展開したかと思いきや、問題作『ボーダーライン』では気味が悪いほどカッチカチに決まった超鳥瞰撮影を放り込んで不安感を煽りまくる。終盤に至るやFPSゲームもかくやとばかりのセンサーによる緊張感溢れる映像を生み出したり、かと思えば部隊が砂漠を歩いて行く宵闇の美しい映像をスクリーンに描いてくれました。ほんとそろそろアカデミー賞やっておけってw
『レヴェナント:蘇えりし者』エマニュエル・ルベツキ
観た後は「ルベツキこの野郎」しか感想が出てこないほど、何もかもが規格外な異常な映像をあの長時間観客に延々見せつける。ロジャー・ディーキンスがアカデミー賞を獲れない間に3年連続受賞という前人未到の記録を獲得。そしてその3本(『ゼロ・グラビティ』『バードマン』『レヴェナント』)がすべて文句の言いようもないという意味不明ブリ。ほんと「ルベツキこの野郎」
『ブルックリン』イヴ・ベランジェ
あのポスターで抱くイメージを裏切らないなんとも味わい深い映像がずっと続く映画でした。ゲロと下痢の印象が強すぎる映画ではありますが、当然それを補って余りある愛すべき映画になっているのはひとえにこの繊細な映像の積み重ねなんじゃなないでしょうか。
『ハドソン川の奇跡』トム・スターン
近年のイーストウッド映画を支えるトム・スターンですから、当然イーストウッドの「サラっ」とした感覚を映像でもキッチリと再現。そのくせ86歳にもなって「IMAXカメラで撮ってみるか」というイーストウッドらしい挑戦にもキッチリ見事な空撮や夜景撮影で応えていました。それにしても全編IMAXカメラで撮影しているので、デジタルIMAXフルフレームでの上映と、通常上映ではシネマスコープサイズでの上映ということで、フレームレイアウトにも相当気を使っていただろうことは、一日に両バージョンをハシゴして観た人間には一目瞭然でしたw なのに、「サラッ」と上下をあっさりトリミングして「知らんぷり」していそうなイーストウッドが恐ろしくもありはた迷惑だなと感じたりしてw
というわけで最優秀撮影賞の発表です!!!
ウマデミー賞、ゴーズ、トゥー……
デレデレデレデレ………
エドワード・ラックマン!!!
『キャロル』!!!!
いや、別にロジャー・ディーキンスにやらないというネタじゃないですからねwww
いいんですよ、ロジャー・ディーキンスは賞とか関係ないんです。
続きまして
サウンドデザイン賞
ここらあたりはちょっと早足で。
ノミネートはこちら
『イット・フォローズ』
『ガールズ・アンド・パンツァー劇場版』(2015年の公開ですが、わたしが観たのが2016年なので)
『アイアムアヒーロー』
『貞子vs伽椰子』
貞子 vs 伽椰子 プレミアム・エディション [Blu-ray]
『死霊館 エンフィールド事件』
『シン・ゴジラ』
『この世界の片隅に』
サウンドデザインは従来ハリウッドのレベルが高すぎて比較のしようがなかったりしますが、2016年は技術部門でも邦画は頑張っていたと思います。『貞子vs伽椰子』では初のATMOSを採用したり(残念ながらATMOSバージョンでは未見)、『シン・ゴジラ』ではこのご時世に敢えてフロントのみで勝負をかけた3.1chサウンドを採用したり、超凶悪なサウンドを堪能させてくれた(これは立川シネマシティさんのおかげもありますがw)『ガールズ・アンド・パンツァー劇場版』も無茶苦茶燃えました。
それでは最優秀サウンドデザイン賞の発表です!
ウマデミー賞、ゴーズ、トゥー……
デレデレデレデレ………
柴崎憲治さん!!!
『この世界の片隅に』!!
もうこれは異論のある方はいないでしょう。アニメーション作品において「サウンド」がどれほど重要かはアレコレ書く必要はありませんが、単純にあの空襲シーンの「ウワアアアアアアアアアアア!!!」さは前代未聞。『プライベート・ライアン』以来の衝撃的サウンドデザインだったのではないでしょうか。いやもうあれを聴くためだけにでもいますぐ映画館へ行ってください。家庭では相当のシステムがないと再現不可能でしょう。
それでは続いて
SFX賞
ノミネートはこちらです。
『オデッセイ』
『アイアムアヒーロー』
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
『シン・ゴジラ』
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』
本来SFXと言うのは「え!? あれSFXだったの!?」というのが至上であって、SFXでございというようなものがすごいわけではないんですが、やはり1990年代以降確実にこちらも「見どころ」の一つとして確固たるポジションを築いてきていますから、今回のノミネートも「すげええな!」と唖然とするようなショットが多い映画を選びました。まあ、唖然という意味では『インデペンデンス・デイなんとか』もするんですけどねw
『オデッセイ』はリドリー・スコットが監督なので「いつもの通り」感があるわけですけど、それって実は相当すごいんじゃないかと思うんですよね。SF界のイーストウッドといいますかw 「サラッ」とすごいSFXで見事に「火星に居るとしか思えない」いや「火星に居るんだと意識させない」ぐらいの日常感溢れるリアリティは抜群でした。『シビル・ウォー』はやっぱりあの空港での大バトル&アントマンのアレw もうSFX映画を観ている楽しさを久々に堪能させてくれたという喜びがいっぱいでした。『ゴースト・バスターズ』とかのワクワクってあんなんだったよなあという感じで。『ローグ・ワン』は「これがわたしたちの観たかった艦隊戦なんだ!!!」を終盤にものすごいボルテージで展開したのが何よりも100点満点でした。そんな中でロスト・フッテージのレッド・リーダーとか出す卑怯極まるアレとかね。『アイアムアヒーロー』はこの21世紀にもなって、ここまで怖いゾンビが映画で観られるなんてという喜びですよね。しかも「特殊メイクアップ」!!! というのがたまらなすぎました。80年代ホラー映画ブームの真っ只中で育った人間として、この映画は絶対に外せませんよ!
というわで、最優秀SFX賞の発表です!
ウマデミー賞、ゴーズ、トゥー……
デレデレデレデレ………
でん!
樋口真嗣特技監督!!!
『シン・ゴジラ』!!!!
『シン・ゴジラ』は邦画にしてはとかという言葉は抜きにして、特撮シークエンスに対してのさじ加減とかアイデアがブッチギリにユニークなんですよね。普通電車のモデリングにわざわざオモチャを参考にしてCGIを作ったりしませんよw 他にも「特技監督」という肩書が復活しているように、「映画の構成として不可欠」な要素としての特撮シーンへの愛情が強烈でした。あの足音の振動で屋根の瓦がガタガタガタガタとかね!! 異常に張り巡らされた電線や電柱ごしに雨あられと銃撃にさらされるゴジラの超アオリ構図とか!!! 「ぐおおお!!」というカットがとにかく連発します。先述したように「見どころ」としてのSFXシーンとして、「こういうのが観たかったんだ!」「まさかこんな映像が!」を作ってくれるととにかく楽しくなってしまいます。また、「高層ビルは倒壊させるためにある」という言葉通りの最後の大スペクタクルには拍手喝采でした。しかも、倒壊したとの風景を現在の風景と一致させるために、これから建つ予定の超高層ビルをわざわざ前もって画面に出してからのぶっ壊しというw 恐れ入りました。
では続いて
音楽賞
ノミネートはこちら!
『イット・フォローズ』ディザスターピース
大好きなジョン・カーペンターのテイストを想起させますが、やたらと気味の悪いノイズ風な音楽は、あの映画の独特な雰囲気に貢献しているのではないでしょうか。
『キャロル』カーター・バーウェル
カーター・バーウェルといえばコーエン兄弟映画には欠かせない人物ですが、今年に限らず最近やったらと仕事をしている印象があります。今年日本で公開した映画に限っても、『ヘイル、シーザー!』は当然として、あの『ザ・ブリザード』(全く音楽の印象なしw)まで手がけていますからね。そんな大忙しにも関わらず、この『キャロル』の音楽は掛け値なしに美しくて映画にピッタリでした。
『ボーダーライン』ヨハン・ヨハンセン
ヨハン・ヨハンセンなんて名前からして只者じゃない感満点ですけど、このサントラぐらいブッチギリで「只者じゃねえ!」感が充満している音楽もなかなか無いんじゃないでしょうか。ヨハン・ヨハンセンがあのサントラ作ってくれなかったら、どうしてたんだろうと心配になるほどです。徹底的に「不穏」としか形容のしようのないイヤアな音楽が延々かかってくるので、映画が徹頭徹尾「イヤアああな」雰囲気を維持し続けるんですよね。すごいサントラでした。
『バットマンV.S.スーパーマン』ハンス・ジマー&ジャンキーXL
ハンス・ジマーってよく共作しますけど、なんと今回はあのジャンキーXLでした。当然例のワンダーウーマンのテーマがすべてを持っていっていましたが、逆に言えば他の曲はほとんど印象に残っていないということですねw でも、観た後延々口ずさんでしまうサントラなんて、それだけで勝ちでしょう!
『デッド・プール』ジャンキーXL
『怒りのデス・ロード』で完全に株を上げたジャンキーXLですが、『バットマンV.S.スーパーマン』に引き続いてアメコミ映画のこちらでもテンションの高い印象的なテーマミュージックを作ってくれました。単純な戦慄なんですが妙に口ずさんじゃいますよね。
『シン・ゴジラ』鷺巣詩郎&伊福部昭
伊福部昭の既製のサウンドトラックを「もうオレこれ以外やるつもりないから遠慮なくつかっちゃうぜ!」という小学生のような発想でギャンギャンに使いまくるなか、庵野秀明の片腕とも言える鷺巣詩郎がキッチリ燃える音楽と不穏で美しいというエヴァ風味な音楽を作ってきたのは燃えましたねえ。実際インストのサントラとしては去年一番ヘビロテでしたし、今も聴いてますw また個人的に再録音盤を使わずにオリジナルをそのまま使ったという、自主制作のようなスタンスに呆れつつも「いいじゃん」と思ってしまいました。それにしても最後の最後にステレオでかかり始める『ゴジラVSメカゴジラ』のテーマは反則だ!
『君の名は。』RADWINPS
やっぱり、単純に主題歌がやったらと耳に残って、なおかつ好きあらば歌ってしまうようなキャッチーな仕上がりになったら、そりゃ大ヒットしますって。珍しく主題歌だけではなく他の劇伴もすべて手がけるという珍しいパターンでしたが、そのインストも結構良いんだから驚かされました。
というわけで、最優秀音楽賞の発表です!
ウマデミー賞ゴーズ、トゥー……
デレデレデレデレ………
ヨハン・ヨハンセン!!!
『ボーダーライン』!!!!
いや、もうこれはヤバイです。個人的にツボつかれまくりのサントラでした。とは言え『シン・ゴジラ』伊福部昭の音楽が全部書き下ろしとかだったら間違いなく『シン・ゴジラ』でしたけどねw まあ、あれは反則ってことで。
それでは、いよいよ「映画を作る」という事と同義である
編集賞
いってみましょう!
ノミネートはこちら!!
『スティーブ・ジョブズ』エリオット・グレアム
アーロン・ソーキンのシナリオがすでに「編集」済みに近い状態だったことは想像に難くないですが、それをきちんと形にしてみせた功績はやはり大きいと思います。1ショット処理の残し方や、3つの時代背景に即したテンポ、そして怪獣バトルと言ってもいい「口喧嘩」のシークエンスを編集の力で大いに盛り上げていたのは素晴らしかった!
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ジェフリー・フォード
よくもまあアレだけの構成部品を破綻なく飽きさせず一本の映画にまとめたなあという功労賞的な意味合いもありますが、『アベンジャーズ』『アイアンマン3』『ウィンター・ソルジャー』とぶっ続けであれだけ手を変え品を変え手切れ味の良い編集を見せてくれるのですから、惜しみなく賞賛したいと思います。今回も例のロードバトルのシークエンスで失禁モノの超絶カッティングを披露してくれましたからね。劇場で大興奮しましたよ!
『シン・ゴジラ』庵野秀明
いやもうこれぞ「映画を作る=編集」ということですよ。音楽に例えると「作曲=脚本執筆」「撮影=編曲」「演奏=編集」ですからね。勘違いされがちですが「撮影=演奏」じゃないですよ。「演奏は編集」です。指揮者のもとで奏者が延々練習して観客の前でいよいよ演奏を披露する。ここが映画の作業でいう「編集」にあたります。こう説明するといかに「編集」という工程が重要なウェイトを占めており「編集」をしないと映画は絶対に完成しないということが分かると思います。
庵野秀明が今回自身のアニメ作品でも得意としている「状況だけをポンポンと観客が認識するよりも先に繋いでいく」というエディットを実写でもガッチリ成功させているのが本当に素晴らしい。100年の映画の歴史でピーター・ハント、市川崑、岡本喜八たちが脈々と実践してきたその手法を、このエンターテインメント作品でもっとも「分かりやすく」「効果的」に結実させた結果には諸手を挙げて喜びたいです。だって、完全に観た人があの「異様なテンポ」を演出としていの一番に口にするじゃないですか。新しい(実際にはずっと試行錯誤されてきたものですが)演出技法を目の当たりにした驚きと喜び(戸惑いも)が、ストレートになんの隠し味でもなく観客に伝わっている素晴らしさ。よくぞやった!
というわけで、最優秀編集賞の発表です!!!
ウマデミー賞ゴーズ、トゥー………
デレデレデレデレ………
庵野秀明!!!
『シン・ゴジラ』!!!!!
完全に映画を次のステージに進めたという意味では、まさに革新的なワークでした。もちろんすべてがすべて上手くいっているというわけではないのですが、実写作品でこれだけ「斬新」な作品も近年ではなかなかお目にかかれないのではないでしょうか。お見事でした。
というわけで、技術部門はここまでです!
いよいよ最後は『作品賞』の発表ですね。ちなみに、個人的に『作品』の功績は監督にあると思っているので(ハリウッドなどではプロデューサーがそれにあたりますが)、監督賞はありません。作品賞をその監督に送る所存です。
では乞うご期待。