なんとも言えないのどかな気分が味わえる楽しいホラー映画
『マックイーンの絶対の危機(ピンチ)』(THE BLOB)★★1/2※CULT
今作は50年代の「外宇宙からの侵略」系B級映画の典型として作られた作品ですが、パラマウントが配給ということも含め、カラー作品であったり、かなりたくさんのエキストラが参加していたりと、少なくとも当時は「ちゃんと」作られた作品であることが分かります。それに加えて、当時ムーブメントを起こしていた「ティーンエイジャー」向けの側面も強く、従来のSF物と違って、主人公たちが「高校生」であることも特徴の一つでしょう。彼らの言動を最初から疑っていた警察や親たちが、いよいよとなったときに信じてくれるという流れも、ティーンエイジャーたちへ向けて作られている感じがします。『ハロウィン』や『13日の金曜日』などで決定的になる「ティーンエイジャーが酷い目に遭うホラー映画」の先駆でもあるのではないでしょうか。まあ、作りて側としては
『理由なき反抗』が大当たりしたので、ああいうのとホラーをくっつけたら儲かるんじゃねえの?
という感じだったんでしょうがw
ともあれ、「たった一晩のお話」だったり、主人公のスティーヴが最初は絡まれていた不良グループと一致団結して事態の収拾に当たったり、子犬の行方をやたらと気にしたり、全体に漂う「牧歌的」な雰囲気が心地よいんです。実際観ていてなんとも言えずノスタルジックな気分が堪能できるのも憎めない理由の一つではないでしょうか。
そうはいっても、この作品が現在まで延々と作品としての価値を維持し続けている理由はただひとつ。
主演が当時無名のスティーブ・マックイーンだったからに他なりません。
↑もともと老け顔なだけに、あまり「若い!」という感じもしませんが、これでも28歳のマックイーン。そして一応高校生の役ですw 完全に教師側の面構え。
今回久しぶりに見直して(30年ぶりぐらいですw)思ったのは、やはりマックイーンのお芝居が上手いということです。ハリウッドは低予算の映画と言ってもある程度の役者さんが揃っているので、大抵は観ていられるのですが、そんな中でも非常に細かくお芝居をしているのが分かります。『荒野の七人』のメイキングで、ユル・ブリンナーがその細かい芝居で観客の目を奪ってしまうのを怒っていたように、貪欲に芝居を積み重ねていくタイプです。例えば、隕石の墜落跡を不良グループで調べに行くシーン。隕石の欠片を拾った時に思わず「あつっ!」という風に両手で移し替えて指を擦ったりしています。スピルバーグの『宇宙戦争』でトム・クルーズが同様に序盤で瓦礫を拾う時に同じ芝居を見せてくれます。
↑マックイーンは「キング・オブ・クール」と異名をとるぐらいなので、基本的には苦虫を噛み潰したような顔で押し通すんですが、それでも(当たり前ですが)笑うべきシーンではこんなに素敵な笑顔を見せてくれます。
↑観ていると、ちゃんと「町と恋人のために」一生懸命頑張っているティーンエイジャーに見えてくるので大したものです。しかし、この映画をカラーで製作したのは本当に英断と言えるでしょう。マックイーンの若い姿をカラーで残しているのですから。
筆者は監督と原案を手がけているアービン・S・イヤワース・ジュニアの作品をこの一本しか観ていないのですが、先述した「牧歌的」な雰囲気が生み出す、なんとも言えない味が他の作品でも感じられるのか興味深くなりました。
こちらもインパクトのあるタイトルで昔からよく知っていますが、今度一度観てみたいと思わせてくれました。
バート・バカラックによるこのノーテンキな主題歌も外せません。何を考えてこの主題歌をつけたのかとか思ってしまいますが、完成された作品のルックスにドンピシャリなんですから、これはもう作り手の勝利としか言いようがありませんね。
アメリカでも当然この映画はカルト的人気を誇っているので、なんとあのクライテリオンからもブルーレイが発売されていたりします。
実はクライテリオンからはレーザーディスクでも発売されており、当時筆者はジャケットだけで欲しくて欲しくてたまりませんでした。
クライテリオンのレーザーディスクはとにかく何もかもセンスが良くて、所有欲を刺激してくれました。この映画でマックイーンの写真を使わないっていうだけでもどれだけ尖っているか分かりますよね。
30年の時を経て80年代の戦うヒロイン時代に誕生したリメイク作
『ブロブ宇宙からの不明物体』(THE BLOB)★★★※CULT
オリジナルの『マックイーンの絶対の危機(ピンチ)』から30年後。1988年に製作されたリメイク作品がこちらです。
カルト作品としてオリジナルの知名度は高く、原題の『THE BLOB(ブロブ)』というタイトルもホラー映画ファンの間では十分有名でしたので、邦題でも『ブロブ』を採用。とはいえ、さすがにそれだけだとまずいと思ったのか、『宇宙からの不明物体』という、ある意味50年代テイストあふれるタイトルを副題に。そして、これが実は本編のヒネリの利いたシナリオに対してミスリードを生み出す結果になっているのですから、怪我の功名と言いましょうか。何にせよ「私たちのブロブ計画」なんぞにならなくてよかったのは言うまでもありません。
果たして今回のリメイク作品、監督と脚本は前年に『エルム街の悪夢3 惨劇の館』でもコンビを組んだチャック・ラッセルとフランク・ダラボンが再びタッグを組んで担当しています。
チャック・ラッセル監督はこのあとジム・キャリーの『マスク』によって大ブレイクを果たしますし、脚本のフランク・ダラボンは言わずと知れた『ショーシャンクの空に』で監督デビューを果たすや時の人と化した人物です。当時はノンクレジットも含めて様々なジャンル映画のシナリオに関わっていたことでも有名です。
そんな2人が組んで作っている作品なので、よくある凡庸な「昔の作品にあやかった」ようなリメイク作品になるはずもなく、現在ではこちらの映画単体でもファンの多い傑作に仕上がりました。
まず、前半部分から「オリジナルを知っている観客」の裏を書いてくるシナリオが秀逸。
チアリーダーとアメフトの選手のカップルが初デートという導入は、そのままオリジナルのマックイーンたちカップルを彷彿とさせ、ケヴィン・ディロン演じる不良のブライアンは、オリジナルで絡んできた不良グループを想起させます。
つまり、そのアメフトの選手が主人公のようにミスリードしていくわけです。まあ、見直せば「そうなんだろうなあ」という風に作られているので分かるのですが、初見では結構衝撃の展開が味わえること請け合い。
↑ご丁寧にブロブに手を蝕まれたおじいさんを助けて病院に連れてくるプロットもそのままなぞるように展開していきますので、その直後に主人公だと思っていたイケメンが見るも無残に殺される衝撃。
そして、物語はオリジナルを踏襲していった前半部分から、突如大きく転換点を迎えることに。
オリジナルでは「ただの宇宙から飛来した人食いアメーバー」に過ぎなかったブロブですが、今作では「アメリカ軍が細菌兵器として衛星軌道上で実験していたもの」として正体が明らかになります。
ここからのミリタリックかつSFホラーとしての展開は、1986年公開の『エイリアン2』による革新を、そのままダイレクトに影響を受けた結果ですね。
オリジナルでのクライマックスであった「映画館」からあふれかえるブロブというパートも、ヒロインが映画館に弟とその友だちを助けに駆け込む展開に。映画館内の阿鼻叫喚の地獄絵図が当時最先端のスペシャル・イフェクトによって披露されます。
この作品のヒロインであるメグも、オリジナルでは「子犬の行方をずっと心配してオドオドしている少女」とは打って変わって、70年代以降80年代的ヒロイン像としての「泣き叫ぶのを止めて立ち向かうヒロイン」として大活躍してくれます。
映画館から脱出し、下水道に逃げ込むヒロインと弟とその友だち。だいたい下水道が出て来る映画は傑作だと相場が決まっていますが、この作品もその例に漏れず下水道でのサスペンスとアクションが最高に盛り上がります。
中でも素晴らしいのは、ヒロインの弟の友だちが、なんのためらいもなくブロブの餌食になるあたりでしょう。このイフェクトを見せたいためだとは到底思えないストーリーテリング上の衝撃を与えてくれます。まさか子どもが!
そして、マンホールの穴からトコロテンのように伸びて襲ってくるブロブや、斜めになった排水路を這い登る緊張感あふれるシーンなどなど、非常に工夫の凝らされた展開に唸らされます。加えて下水道の中でバイクを使ったアクションまで登場するあたりは無条件に燃えさせられます。
終盤では、いよいよヒロインが当時の風潮を反映し、M16アサルトライフを手に反撃に転じます。
『エイリアン2』以降、SFやホラーやアクションでは女性が銃を撃ってなんぼという時代があり、実はそれは今でもずっと続いています。
今作では、恐らく初めて銃を扱うであろうヒロインが、ちゃんとセーフティーで射撃ができず、慌ててそれを解除したらドガガガと弾が出てしまうという描写をしているのが細かい。先の『エイリアン2』でもキッチリ描写されていた部分です。男女問わず銃の安全装置のことを知らない人間がほとんどだと思いますが、こういう描写があるのとないのとではクオリティに大きな差が出ることは明白です。
オリジナルをキチンと踏襲しつつ、近代的にアップデートしたクライマックスの一大スペクタクルは、怪獣映画としても文句のつけようのない大暴れが堪能できます。
今作の80年代のSFホラー映画としての見どころとして、ほとんど「隠すこと」なしに、ブロブが人間をグッチョングッチョンに殺しまくる描写があげられます。これはまさにCG登場以前の80年代スペシャル・イフェクト時代全盛のこの当時ならではの楽しさではないでしょうか。
そんな本作の中でも出色のシーンが、キャンディ・クラークが電話ボックスに雪隠詰になる場面。
電話ボックスに逃げ込んで、好きだった保安官に助けの電話をすると、なんとその保安官本人がすでにそこへ向かっていた上に、ブロブに食べられてしまっているというエゲツなさ極まる鬼展開。
まだブロブの中で消化中らしく、生きて目が動いているあたりのグロさは特筆モノで、そのイフェクトの素晴らしさと相まって大変なインパクトを観客に残しています。
挙句に、キャンディ・クラーク自身もブッチャン! とばかりにミキサーの中のバナナのようにグッチャグチャになる様を、俯瞰でそのままワンカットで見せるという拍手喝采ぶり。
いやあ、この当時のスペシャル・イフェクトの技術の高さとセンスを思う存分堪能できるという意味でも、この作品は今でも十分視聴に耐えうる作品ではないでしょうか。
なんと、オリジナルから30年後に製作されたこのリメイク版ですら、公開から来年で30年が経とうという未曾有の事態が目の前に迫っています。
三度目のリメイクの噂はとんと聞きませんが、その必要は無いと思えるほど強靭な作品になっていると思います。現在ではAmazonビデオでも配信され、プライム会員であれば無料でHDクオリティで観られる状態ですので、ぜひこちらの作品だけでも楽しんでいただければと思います。
オリジナルも機会がアレばぜひ!
小説の世界にも大きな影響を残しています
余談ですが、『マックイーンの絶対の危機』はもう一つホラーの世界で大きな作品を生み出しています。それは、キングと並ぶモダンホラー作家として活躍していたディーン・R・クーングが書き下ろした傑作長編『ファントム』です。
オリジナルの『マックイーンの絶対の危機』が、予算の関係上結果的とは言え生み出していた「いつの間にか町が得体の知れない何かに襲われている」というシチュエーション。その恐怖を現代的にブラッシュアップし、リアリスティックな作風で完成させたのが今作です。
久しぶりに生まれ故郷に戻ってきた姉妹でしたが、戻ってきた町は不気味に静まり返っており、メアリー・セレスト船の都市伝説よろしく「さっきまで人が生活していた痕跡を残した」まま住民が忽然と消えている。
そこからはじまる展開は、まさにモダンホラーとしかいいようのない恐怖で、終盤では『ブロブ』のリメイク版よろしくSFとしての風呂敷の広げ方も素晴らしい作品になっています。
こちらも気になった方はぜひご一読ください。
まさに80年代を代表するSFホラーの傑作であり、「泣き叫ぶのを止めて立ち向かうことを選んだヒロイン」映画の金字塔でもあります。この作品以降ヒロインが銃を撃つのが当たり前の時代に映画は突入します。
チャック・ラッセルがエグゼクティブプロデューサーとして参加したスラッシャー映画の傑作。終盤で明かされる掟破りの展開でも有名な作品ですが、「泣き叫ぶのを止めて立ち向かうヒロイン」映画としての素晴らしい作品。
フランク・ダラボンが本来の闇の力を全力で発揮させた超傑作ホラー。「ショーシャンクの空にが大好きなんですぅ」と笑顔でのたまう人間に、「その映画の監督が作った同じ原作者の映画もおすすめだよ」とコレをすすめるのが真っ当な映画ファンの務めであることは言うまでもない。